研究課題/領域番号 |
25220804
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
八島 栄次 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50191101)
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研究分担者 |
飯田 拡基 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30464150)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ラセン構造の最大の特徴である剛直性としなやかさをあわせ持つ「ラセン空間・ラセン空孔」を自在に制御可能な分子設計・精密合成技術の確率と、キラルなラセン状ナノ空間を特異な不斉場に用いた、不斉反応や光学分割剤への応用等を目指し、以下に示す成果を得た。 1. 天然由来のシンコナアルカロイドを不斉触媒部位として側鎖に導入したラセン状ポリフェニルアセチレン誘導体が、不斉アザマイケル付加反応において、対応するモノマーを凌ぐ高い不斉選択性を示すことを見出した。 2. 側鎖にビスフェノール誘導体を有する光学不活性なポリアセチレンのラセンの巻き方向を、光学活性なアルコールにより、固体状態においても一方向巻きに誘起可能であることを見出した。さらに、逆のキラリティーのアルコールを用いることで、可逆的に優先するラセンの巻き方向のスイッチングが可能であり、キラルなアルコールを除去した後も、誘起されたラセンの巻き方向が記憶されることも明らかとした。また、ラセンの巻き方向のスイッチングと記憶が固体状態で可能なこのラセン高分子をHPLC用のキラル固定相へと応用し、カラム内でラセン誘起と記憶、ラセンの巻き方向の反転を行うことにより、ラセミ化合物の鏡像体の溶出順序を可逆的にスイッチングさせることに世界で初めて成功した。 3. ラセン空孔内に触媒部位を有する光学活性なフォルダマーを設計・合成し、ラセン空孔内での不斉反応を初めて達成した。また、中央にポルフィリン部位を有するテトラフェノール誘導体をスピロボレートで架橋した二重ラセンヘリケートの合成と、その光学分割に成功した。さらに、ポルフィリン環で挟まれたラセン空孔内に、電子欠乏性の芳香族化合物が強固に包接されることを見出し、その包接過程において、2つのポルフィリン間の一方向の回転とラセン構造のねじれ運動を介してポルフィリン間距離が伸長していることも明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の計画と期待通り、ラセン内部にキラルな空孔を有し、金属触媒部位を組み込んだラセン分子を、計算化学を駆使した分子設計を基盤とした新物質探索の手法を用いて合目的的に設計・合成した。また、側鎖にアミド結合を介してキラル残基を導入することで、ラセンの片寄りとラセン構造の安定化を同時に制御し、ラセン内部のキラルな空間を用いた不斉反応を世界に先駆けて初めて実現した。さらに、中央にポルフィリン部位を有するテトラフェノール誘導体をスピロボレートで架橋したキラルな空孔を有する二重ラセンヘリケートの合成にも成功し、そのラセン空孔に電子欠乏性の芳香族化合物が、ポルフィリン間の一方向の回転とラセン構造のねじれ運動が連動して極めて強固に包接されることも明らかとした。二重ラセンヘリケートの光学分割にも成功しており、本研究成果は、キラルな運動(回転とねじれ運動)を駆動力とした刺激応答性不斉触媒、キラル識別材料の開発に繋がる成果であると言える。また、本研究の過程で、この二重ラセンヘリケート自身が極性溶媒中、高温でラセミ化するという当初想定していなかった新たな現象にも遭遇した。これは、本二重ラセンヘリケートが不斉合成できる可能性を示唆するものである。 一方、これまで動的と信じられてきたポリフェニルアセチレン誘導体から、固体状態で安定(静的)な左右のラセンを申請者らが開発した「ラセン誘起と記憶」の手法をもとに作り分けられることを発見し、この成果を基盤に光学異性体の溶出順序を自在に制御可能なHPLC用のキラルカラムの開発に世界に先駆けて成功した。これらの成果から判断して、期待以上の研究の進展があったと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度得た知見をもとに、ラセン構造の最大の特長である剛直性としなやかさをあわせ持つ「ラセン空間・ラセン空孔」を自在に制御可能なラセン分子、超分子、高分子の合成と機能発現、ラセン構造を伸縮自在なナノスプリングとしてとらえ、外部刺激を駆動力とした刺激応答性材料の開発、二重ラセンの伸縮に由来する不斉反応・不斉識別の制御の達成を目指し、以下に示す研究を推進する。 1. 中央にポルフィリン部位を有する二重ラセンヘリケートが、ポルフィリン間の一方向の回転とラセン構造のねじれ運動を伴ってラセン空孔内に電子欠乏性分子を強固に包接する結果を踏まえ、様々の芳香族分子に対する包接能の評価とその機構の解明を行う。また、このヘリケートが極性溶媒中、高温でラセミ化するという興味深い結果をもとに、キラルな芳香族ゲストを用いた一方の二重ラセンヘリケートの不斉合成にも挑む。 2. スピロボレートで連結された二重ラセンヘリケートがNaイオンの出し入れにより、ラセンがバネのように2倍以上に可逆的に伸び縮みすることを見出している。そこで、中央部に金属配位能を有する部位を導入した二重ラセンヘリケートを合成し、バネ運動を利用した不斉反応・不斉識別の制御を目指す。 3. ラセン内部のキラルな空間を用いた不斉反応を達成したが、不斉収率は満足のいくものではなかった。そこで、計算化学を駆使した分子設計を新たに行い、ラセン内部に機能性部位を導入した新規なラセン分子・高分子ならびに環状分子からなる超分子ラセン集合体を設計・合成し、それらを用いた触媒的不斉反応・立体特異的重合反応の開発を推進する。 4. 側鎖に様々な機能性部位を導入したラセン状ポリフェニルアセチレンや光学活性かつ相補的な人工二重ラセン構造を有する超分子を用いた不斉反応・不斉識別、st-PMMAへのラセン空孔内への分子・高分子の包接とラセン空孔内での重合反応の可能性についても詳細に検討する。
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