研究実績の概要 |
本研究では、ラセン構造の最大の特徴である剛直性としなやかさをあわせ持つ「ラセン空間・ラセン空孔」を自在に制御可能な分子設計・精密合成技術の確立と、キラルなラセン状ナノ空間を特異な不斉場に用いた、不斉反応、重合反応、光学分割剤への応用等を目指し、以下に示す成果を得た。 1. アシルヒドラジン部位を有する光学活性なビフェニル誘導体と2,6-ピリジンジカルボキシアルデヒドとの重縮合によりラセン空孔内に金属配位部位を有するフォルダマーを合成し、このフォルダマーが分子内水素結合により一方向巻きに片寄った安定なラセン構造を形成するとともに、分子間水素結合を駆動力とした超分子重合を介してラセン状ナノチューブを形成することを明らかにした。さらに、Ag+イオンの配位によりW字型からU字型へと協同的に構造変換することも見出した。 2. Na+イオンの出し入れにより可逆的な伸縮運動を示すヘリケートの二重ラセン形成機構(メソ・ラセモ変換)を明らかにした。また、伸張したヘリケートが内部に他のアルカリ金属 (Li+, K+, Rb+, Cs+) イオンやAg+・NH4+イオンをも取り込むことで収縮し、カチオン (M+) の放出・捕捉過程において、可逆的な伸縮運動を示すとともに、M+のイオン半径が小さいほど、会合定数が増大することを見出した。すなわち、このユニークなバネ運動の分子レベルでの機構の全貌を解明することに成功した。 3. ビスポルフィリンで連結された光学活性二重ラセンヘリケートが、二重ラセン空孔に由来する高い不斉識別能を有するとともに、キラルな電子欠乏性ゲスト存在下、少量の水を含む極性溶媒中、高温でラセミのヘリケートが高不斉選択的にデラセミ化することを見出した。 4. 光学活性なアミン存在下、2,6-置換アントラセン部位をリンカーに有するカルボン酸二量体の[4+4]光二量化反応が、高不斉選択的に進行することを明らかにした。
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