研究課題/領域番号 |
25220805
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
君塚 信夫 九州大学, 工学研究院, 教授 (90186304)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 金属錯体 / 誘電性 / フォトン・アップコンバージョン / 三重項ー三重項消滅 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、研究計画に従って以下の研究成果を得た。 (1)フレクシブルな強誘電性金属錯体として、脂溶性Zn(II)ポルフィリン誘導体と2種の永久双極子を含む二官能性架橋配位子の自己組織化により、2種類の一次元金属錯体を得た。(2)これらの一次元金属錯体は、250K-445Kの温度範囲でカラムナー液晶を形成し、393K-433Kの温度領域において、P-E曲線がヒステリシスを示した。以上より、また金属配位結合を利用して超分子強誘電体を構築できることをはじめて明らかにした。(3)近赤外領域の光を可視光領域にアップコンバージョンするための方法論を開発した。近赤外光領域をアップコンバージョン可能なドナー分子の探索を行なった結果、Os錯体のS0-T1吸収帯(938 nm, 1.32 eV)を励起して、ルブレンへの三重項エネルギー移動と、その三重項―三重項消滅に基づく可視光(570 nm, 2.18 eV)へのフォトン・アップコンバージョンが可能なことを見いだした。一方、このOs錯体の三重項寿命が12nsと極めて短いために、ジクロロメタン溶液中における量子収率は0.0047%と極めて低い結果となった。(4)そこで、再沈殿法によりルブレンのナノ粒子を作製し、そのナノ粒子内部にOs錯体をドープした。このドナー/アクセプター複合ナノ粒子をポリビニルアルコールフィルム中に固定化したところ、量子収率は3.1%にまで増大し、溶液分散系に比べて著しく高いフォトン・アップコンバージョン量子収率を達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フレクシブルな強誘電性金属錯体 についてはZn(II)ポルフィリン誘導体―永久双極子を含む架橋配位子から成る液晶性超分子錯体について強誘電性に基づくP-E曲線のヒステリシスを観測し、Chem.Eur.J誌に発表した。Inner Coverにも採用され、当初の目標を達成した。また 当初全く予想していなかった「S0-T1吸収を利用する、新しいフォトン・アップコンバージョン現象」を見いだした。本年度に開発した脂溶性Os錯体とアクセプター(ルブレン)から複合ナノ粒子を作製する手法によって近赤外光の可視光領域へのアップコンバージョンが原理的に可能となり、その成果をJ.Am.Chem.Soc誌に発表した。従来の三重項ー三重項消滅機構に基づくフォトン・アップコンバージョンでは、ドナー分子の系間交差(ISC)により、アンチストークスシフトの減少が起こるため、近赤外領域のフォトン・アップコンバージョンは困難であった。今回の成果は、従来の問題点を克服するもので、その意義は極めて大きい。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、これまで得た成果をもとに 以下の重要課題に取り組む。 (1)増感剤を必要としないフォトン・アップコンバージョン現象を一般化し、その分子設計指針を明らかにするために、集中的に新規化合物の系統的な合成を進める。これらの化合物から近赤外光を可視光に変換するナノ粒子を作製できれば、例えば太陽電池積層構造との複合化による太陽電池の高感度化や、可視光触媒の活性化など、多岐にわたる利用展開の可能性を模索する。また、水溶性ナノ粒子への変換をはかり、生体内バイオイメージング技術や光治療など、全く新しい応用分野の開拓を目指す。本発見は、光の関わるあらゆる研究領域に、世界的に大きなインパクト・波及効果を与えることが期待される。(2)可視→紫外領域のフォトン・アップコンバージョンに適したドナー、アクセプター分子の励起三重項状態について量子化学計算を行い、最適な組み合わせを探索、合成する。これらについて、溶液中でのTTA-UCを検討するとともに、光触媒の効率化への応用展開をはかる。(3)量子収率は、TTAの後一重項励起状態が生成する確率f,ドナー・アクセプター間の三重項エネルギー移動ΦET、TTAの量子収率ΦTTAとアップコンバージョン蛍光の量子収率ΦFLの積で表される。そこで量子収率の高いMOFナノ結晶の探索や、ナノMOF表面に高い量子収率を示す蛍光団を固定する手法について検討を進める。また、金属を用いないナノ結晶によるフォトン・アップコンバージョンシステムの開発にも取り組む。
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