研究課題/領域番号 |
25220903
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大西 公平 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (80137984)
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研究分担者 |
森川 康英 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (90124958)
小澤 壯治 東海大学, 医学部, 教授 (10169287)
下野 誠通 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90513292)
大石 潔 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40185187)
名取 賢二 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70545607)
元井 直樹 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 講師 (10611270)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 電気機器工学 / ハプティクス / 医工連携 / 動作抽出 / モーションコントロール |
研究実績の概要 |
本研究では人間の複雑な行為を抽出できる人間支援プラットフォームHEM2を試作開発し、抽出した行為を、単自由度に分解、発現、複数軸時空間統合をすることで複雑な人間の行為を人工的に実現することを目指す。本技術は医療分野のみならず、広く産業や農業分野などにおいても工程の自動化が見込め、労働人口の減少する超成熟社会で高いQOLを達成する基盤技術となるものである。本年度は研究計画を前倒しして、多機能統合による行為の実現と身体機能支援システムの更なる多自由度化に関する研究を行い、次のような研究成果を得た。まず、構築したデータベースから身体機能を抽出し時空間統合することで、現実的な人間行為の実現を目指して、5自由度10軸だった身体機能発現システムを22自由度44軸多機能行為実現システムへと拡張し、擬似生体に対するin vitro自動縫合実験に成功した。次にネットワークを介した遠隔力触覚伝達における、多自由度動作の検証をプロトタイプHEM2を用いて達成した。これにより身体機能の表現理論が遠隔操作によっても可能であることを示した。更に力触覚伝達において通信遅延が存在する場合に、座標変換を活用しその影響を低減させる手法や、情報の再受信によって通信遅延モデルを用いずにシステムの安定性を高めることに成功した。また、マイクロサージャリ用縫合糸の伸張動作における力覚増幅システムの開発、およびボイスコイルモータを用いた力触覚増幅伝達システムを構築し、人間には知覚することのできない繊細な力を操作する作業においても本技術が適応可能であることを示した。最後に多自由度口腔外科手術支援システムを試作し、外科手術支援において力触覚を用いた軌道誘導を達成し、モーションコントロールの基本原理が身体行為の直接的な支援にも援用可能であることを示した。 以上の成果を学術論文、学会講演などを通して社会に発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は当初の研究計画を越え大幅に前倒し、産業展開にも成功するとともに、HEM2を用いた外科支援行為の実現まで行うことができた。特に後者は多自由度動作であり、その基本となるHEM2の試作は研究計画Dに含まれており、外科支援に適した22自由度44軸のものを製作することができた。試作したHEM2の先端部でジンバル構造をとっており、体内に挿入しても十分な動作が確保される。更に、製作したHEM2に対して身体機能の「表現」理論(研究計画A)、「発現」理論(研究計画B)および行為「実現」理論(研究計画C)を実装した。具体的には外科手術における縫合動作を例とし、人間の行為から運動の三要素を抽出し実データとして表現、それらをインデックス化し、自由に発現、さらに発現した単機能を時空間統合することで、HEM2単体による自動縫合、自動結紮を恐らく世界で初めてIn vitro実験において成功した。また、マイクロサージャリ支援ロボット、口腔外科手術支援ロボットの開発にも成功し、遠隔操作に欠かせない通信遅延補償に高周波数ダンパ方式を考案し安定性の問題を解決した。これは平成28年度に実施する予定であった研究内容であるが、前倒しで実施できたことになる。この研究成果により人間の身体行為をメディア情報として取り扱い(コンテンツ化)、任意に再実行可能であると示すことができた。この結果は医療行為のみならず、産業界において人手が必要とされている作業の自動化へも転用可能な技術である。実際に企業に技術移転を行い、危険作業を伴うゴミ溶融炉前作業の無人化に成功した。このように、基礎理論の確立と実験的な検証及び産業界への技術移転まで成功裡に完遂してきており、医工融合技術による社会技術基盤の革新への見通しがたったと言える。 以上より平成27年度は当初の目標以上の成果が達成されていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究進捗より、人間の動作を2つの双対な変数に分解し、分解したデータを組み合わせて動作が再構築出来ることを理論的、実験的にも示した。このように行為動作の解析論及び設計論に関する鍵技術が確立したので、今後の研究を更に加速することが可能である。例えば、行為コンテンツの概念により、当初の研究計画である医工融合基盤革新の枠を超え、自動化装置を活用している産業基盤、社会基盤の革新までの応用範囲拡大が視野に入ってきている。このような広い展開が可能になったため、QOL向上への貢献がより現実的になると考えられる。今後は、開発した技術をさらに深化した高度なプラットフォーム開発を進めるとともに、本技術を技術基盤として産業や民生にまで広く応用するため、企業を中心としたコンソーシアムを立ち上げ、普及活動を活発化する。これらの達成のため今後は下記に示す3つの内容に対して重点的に研究開発を実施する。 1. 行為のコンテンツ化:本研究成果を援用することで人間の行為をメディアコンテンツとしてサーバに蓄積することや、人工的に再利用可能とする仕組みを構造化する。 2. クラウド(Internet of Actions)の構築:行為コンテンツをインターネットを通じて利用可能とするインフラストラクチャを構築する。 3. HEM2の高度化およびハプティックチップの設計:本研究の中核となるHEM2を高度化し、核技術をユニット化することでハプティックシステムを標準化する。また、標準化と共にハプティクス技術を容易に実現できる専用チップの開発にも取り組む。 これらの活動はすでに発足しているコンソーシアムと連携して進めるとともに、学術成果を論文としてまとめ発表する。また、その成果の一部はマスメディアや公開シンポジウムなどを通じて広く社会に発信する。
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