研究課題/領域番号 |
25220904
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
水田 博 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (90372458)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 先端機能デバイス / ナノマシン / マイクロ・ナノデバイス / 1分子計測 / 電子デバイス・機器 |
研究実績の概要 |
グラフェンNEMS(GNEMS)スイッチの開発においては、2層グラフェン両持ち梁の下部に金の制御電極を有する2端子型GNEMSスイッチを作製し、下部制御電極への印加電圧1.8 Vでグラフェン両持ち梁をプルイン動作することに成功した。このスイッチング電圧値は、従来の薄層SOI膜を用いたシリコンNEMSスイッチに比べて1桁以上の低電圧化を実現したものである。印加電圧を下げるとグラフェン両持ち梁はプルアウトして初期状態に戻り、このオン・オフ動作を複数回繰り返し観測することができた。 しかし、このGNEMSスイッチはオン・オフ動作を繰り返すうちに、グラフェンと下部電極間で炭素‐金の化学結合が形成され、最終的にはプルアウトできなくなることがわかった。そのため、改良素子構造として、金/クロム積層構造を有する制御電極をグラフェン梁上部に備え、その下面を自然酸化膜(酸化クロム)とすることで化学結合形成を防ぐ構造を試みた。この方法で、グラフェン両持ち梁型および、片持ち梁型2つのGNEMSスイッチを作製し、いずれの素子でも数百回の繰り返し動作が可能であることを観測することに成功した。
一方、グラフェンセンサー素子開発においては、希薄な二酸化炭素ガス雰囲気におけるグラフェンナノリボンの電気特性の経時変化を観測し、電荷中性点のシフトから二酸化炭素分子とグラフェン間の電荷移動の変化を詳細に分析した。その結果、基板電界の極性と大きさに依存して、電荷移動の量と向きが変化し、ドーパントとしての二酸化炭素分子がドナー型・アクセプター型双方の特性を持ちうることを初めて明らかにした。また、観測した現象の詳細な理論解析を行うため、分子‐グラフェン間のファンデルワールス力を取り入れた密度汎関数法(vdW-DFT)第一原理シミュレーションを行い、実験結果と良く一致する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GNEMSスイッチ開発において、気層フッ化水素で犠牲層(シリコン酸化膜)を選択的にエッチングする工程において、グラフェン梁下の犠牲層が選択的にV字谷状に深くエッチングされた上、グラフェン梁がHF蒸気残りによる毛管力のために壊れてしまうという予期せぬ問題が生じた。 この問題はHF気層エッチングの条件変更の範囲では回避できず、犠牲層エッチングプロセスをバッファードフッ酸(BHF)による液相エッチングに切り替え、リンス・乾燥時の毛管力を避けるため、CO2ガスによる超臨界乾燥法を用いてこの問題を解決した。このプロセス開発のために、素子試作計画に若干の遅れが生じたが、これを克服して現在では当初の開発ロードマップにほぼ沿って進展している。試作したGNEMSスイッチを評価した結果、当初予想していたよりも遥かに低電圧(研究代表者が先に開発した同レベル寸法のシリコンNEMSスイッチの約1/20のスイッチング電圧)で機械的スイッチングを行うことが可能であるという成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
GNEMSスイッチ開発においては、グラフェンクロスバー構造のスイッチを作製し、グラフェン‐グラフェンコンタクト界面の安定性とそれを介した電気伝導のメカニズムを明らかにする。また、GNEMSセンサー・スイッチ素子集積化に向けた基盤技術として、海外協力機関であるサウサンプトン大学と共同で、PECVD法を用いてSiO2膜上に直接大面積ナノ結晶グラフェン(NCG)膜を成長する。このNCG薄膜上に、両持ち梁GNEMSスイッチのアレイを作製し、プルイン・プルアウト電圧の安定性と繰り返し動作特性を評価する。 GNEMSセンサー素子開発においては、2層グラフェンを用いて両持ち梁型GNEMSセンサー素子を作製する。ppbレベルの希薄環境ガス導入時における電気特性の経時変化を詳細にモニターし、グラフェン両持ち梁上への単分子吸着を直接観測することを試みる。また、検出時間の大幅短縮を目的として、基板電界によって希薄ガス分子の吸着を加速させる方法を検討する。これと並行して、実験と同じ基板電界を取り入れたvdW-DFT第一原理シミュレーションと分子動力学シミュレーションを実施し、単分子吸着・脱離プロセスと、分子‐2層グラフェン間の相互作用を明らかにする。
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