研究課題/領域番号 |
25220905
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川人 祥二 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (40204763)
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研究分担者 |
香川 景一郎 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (30335484)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 電子デバイス・機器 / 先端機能デバイス / 撮像デバイス / 時間分解撮像 / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
本年度は、時間分解能のさらなる向上、極微弱光に対する高時間分解計測、及び試作素子の応用計測を実施し、以下の成果を得た。 1タップ型ラテラル電界制御電荷変調素子(LEFM)を用いた光飛行時間型距離画像センサでは,1/fノイズ低減により距離分解能が200μmまで向上し、時間分解能として1.3psを得た。さらに、低周波ノイズ除去性能の高い3出力LEFMを用いたTOF距離画像センサでは、1フレームで距離分解能150μm(時間分解能1ps)、100フレーム平均で距離分解能42μm(時間分解能280fs)を達成し、サブピコ秒の時間分解能を実証することができた。 バイオイメージング応用では、高時間分解と低ノイズ性能を両立した2出力2段電荷転送方式のLEFM素子を実現し、512×256画素、180psのデバイス応答時間、14psの時間分解能(1フレーム)等を実現し,染色した細胞からの極微弱蛍光によるナノ秒オーダの蛍光寿命画像を得た。さらに、生体細胞内の自家蛍光物質(FAD, NADH)に対する蛍光寿命イメージングを試み、癌化したラットの大腸の組織片の正常部と癌部において、NADHに起因するものと考えられる約200psの蛍光寿命の変化を観測した。 本素子の時間分解NIRS(近赤外分光)による脳活動イメージングへの応用を目指し、血液を含む生体の模擬的試料に対して、サブナノ秒領域での時間応答波形を得ることができた。極微弱蛍光イメージングに求められる超高感度光電子検出器としてRGL(Reset-gate-less)検出器を提案・試作し、画素平均の実効値で0.27電子という極めて低ノイズの性能を得た。 その他、LEFMの高速シャッタを活用したマルチアパーチャ方式による超高速CMOSイメージセンサを試作し、200Mfpsの超高速撮像を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光飛行時間(TOF)距離画像センサでは、最高で280フェムト秒(100フレーム蓄積)という極めて高い時間分解能を達成しており、サプピコ秒を目標とした当初計画を越える成果を得ている。微弱光に対する蛍光寿命イメージセンサでは、デバイス応答時間180ps、時間分解能14ps(1フレーム)を達成し、最終目標である「10psオーダの蛍光寿命を高精度に計測する」という目標をほぼ達成できる見通しを得た。内視鏡による癌検出への応用に向けた基礎的な検討として、ラットの癌化した大腸組織に対する蛍光寿命イメージングを実施し、医療応用計測においても成果が出始めている。 超高感度電荷検出器において、0.27電子(実効値)という極めて低ノイズの検出器の試作と、イメージセンサとしての性能実証(光電子増倍を用いずに0.3電子未満の極低ノイズイメージを得た世界初の結果)に成功した。これは当初計画には明示しておらず、「当初目標を越える進展」の1つである。 研究期間の後半で実現を目標とした、8タップ、16タップといった超多点出力のLEFMについても、H27年度に新規構造を考案し、8タップ方式について設計・試作を行っている。他の光計測への応用展開については、時間分解NIRS、誘導ラマン散乱イメージング、バイオイメージング用微小蛍光体(Q-dot)開発にむけた寿命計測、LEFMの高速シャッタ動作を活用した超高速撮像等、活発に推進している。 微弱光時間分解バイオイメージングにおける感度改善、LEFMのデバイス設計の理論構築等、今後研究を加速しなければいけない課題もあるが、当初計画以上の優れた時間分解能、極低ノイズ電荷検出等の発明と実証等当初目標以上の成果を得ている研究内容もあり、総合的な評価としては、「概ね順調に推移している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
蛍光寿命イメージセンサについては、数1Opsの寿命まで高精度に計測できることを実証する。このために、電荷変調素子の応答速度等の基本性能の改善に加えて、センサの自己寿命(応答速度)の影響を、デコンボリューションによって高精度に取り除くための素子の高精度なモデリング(波長依存性の考慮等)を進める。また、より高S/Nでの時間分解撮像に向けて試作を行っている4タップ型、8タップ型の電荷変調素子の評価を行い、時間分解能やS/Nの改善におけるタップ数の効果を明らかにする。さらに、大口径のマイクロレンズの形成を試み、実効的量子効率の改善を図り、S/Nの改善効果を明らかにする。また新たな成果である0.27電子という極低ノイズ性能を有する超高感度電荷検出器(Reset-gate-less電荷検出器)を蛍光寿命イメージセンサに応用し、時間分解イメージセンサにおけるノイズ改善効果を明らかにする。 本蛍光寿命センサの医療応用計測として、自家蛍光物質(FAD, NADH)の寿命計測の高精度・高分解能化を図り、医学系の研究協力者との協力を得て、正常細胞と癌細胞の蛍光寿命の違いに基づくイメージングの確立に向けて、基本特性の評価や、動物実験などを進める。 超高分解能距離画像センサについては、極限的距離分解能及び時間分解能の達成を目指し、光飛行時間法を用いた3次元形状計測の分解能として、10μmを越える分解能(100fsを越える時間分解能)の達成に挑戦する。
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