研究課題/領域番号 |
25220908
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 宗朗 東京大学, 地震研究所, 教授 (00219205)
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研究分担者 |
市村 強 東京大学, 地震研究所, 准教授 (20333833)
Maddegedar a.L. 東京大学, 地震研究所, 准教授 (20426290)
長尾 大道 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80435833)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 地震災害推定 / 地震被害推定 / 高性能計算 / 都市モデル / 大規模数値解析 |
研究実績の概要 |
繰越をした本研究の研究成果は,高性能計算の利用を前提に,従来の都市モデルと比較して,空間分解能が各段に向上した次世代都市モデルの構築手法の高度化を進めたことである.高度化のポイントは,1)より多くの種類の都市情報を分析・変換し,都市モデル構築に利用できるようにすること,2)都市情報の不確定性に応じて,モデルパラメータを変えた複数の都市モデルを構築できるようにすること,の二点である. 都市情報のリソースとしては,複数の市販GISを利用できるようにした.全国を網羅するものの構造物の解像度が低いGISと,人口密集地のみに作られた構造物の解像度が高いGISである.この二つのGISに対応できるようにした. このGISを基に,橋梁を含む道路ネットワークの都市モデルも自動構築できるように,都市モデル構築手法を拡張した.橋梁構造物の地震応答解析用のモデルは,橋脚単体を対象とした簡易なバネ質点モデルから,複数の橋脚とその上部構造となる橋桁を対象とした有限要素法の梁・シェル要素モデルからソリッド要素モデルまで,構築できる.また,エネルギー・上下水道の地下埋設管ネットワークであるライフラインに関しても,簡単な梁要素モデル,シェル要素モデル,ソリッド要素モデルが構築できるようにした. 本来,他の用途のために作成された都市情報を,地震シミュレーション用の解析モデル構築に転用するため,モデルのさまざまなパラメータに不確定性が生じることは不可避である.不確定なパラメータに対し,他の情報を考慮し,適切と思われる確率分布を設定することでこの問題の解決を図っている.さらに,確率分布を基に,必要かつ十分な数の複数の解析モデルを自動構築する要,手法を拡張した.不確定なパラメータの確率分布も自動に設定できるようになっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,想定していた計算環境よりも,より高速・大容量のシミュレーションを実行できる計算環境を構築することに成功した.高性能計算を前提とする本研究では,この計算環境の整備は本質的に重要であり,より広い範囲の都市に対し,より多くの数の地震シナリオに対して,地震の災害と被害のシミュレーションが実行できるからである. 高速・大容量のシミュレーションを実行できる計算環境を利用して,本研究の目的である次世代都市モデルを使った地震被害・災害の推定方法の構築は順調に進展していると自己判断している.高性能計算のcapacity computingを利用することで,多数の地震シナリオを考慮するとともに,都市情報の不確定性に対処する多数の都市モデルの地震シミュレーションが実行できることが確認された.なお,多数の都市モデルとは,都市情報の不確定性を,適切に推定された確率分布を持つ都市モデルのパラメータとして扱うことで構築されるものである. 実際に発生する地震の震源や規模が不確定であるため,大小さまざまな地震シナリオを考慮しなければならず,同時に,都市モデル自体にも不確定性を持つため,不確定性をパラメータの確率的分布として扱うことは,自然である.多数の地震シナリオと多数の都市モデルのシミュレーションが要求する大規模数値計算が,適切な計算環境を整備することで,実行可能であることが示されたことの意義は大きい.
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今後の研究の推進方策 |
地震災害・被害の推定手法の根幹は,高性能計算を前提とした,地盤の地震動計算と構造物の地震応答計算を組み合わせたものである.並列計算環境において高いスケーラビリティを示す優良な解析プログラムを作るとともに,解析プログラムを適用する地盤と構造物群の都市モデルの自動構築が重要である.都市モデルの不確定性も考慮された,従来よりも高い空間分解能を持ち,地上・地下の社会基盤施設も含む次世代型都市モデルが自動構築できるようになったことは,地震動計算と地震応答計算の組み合わせである統合シミュレーションを実現するものである. 一方,大小さまざまな多数の地震シナリオを想定し,不確定性に対応した多数の都市モデルのシミュレーションは,文字通り,大規模計算である.本研究の目的である,地震被害の評価には,この大規模計算の計算結果を適切に処理することが重要である.計算結果の処理に関しては,先行して検討を進めてきたが,検討結果を具体的な処理手法としてまとめることが必要である.地震シナリオに対する被害の平均や分散,さらには相関を計算する,という常套的な統計処理を行うだけでも,計算結果が大規模(1~10PB)であるため,決して容易ではないことには注意が必要である. 上記の統計処理とは別に,物理を考慮した処理方法も検討している.地盤の地震動計算と構造物の地震応答計算は,共通の波動方程式を解き,その解が地震動と地震応答になる.波動方程式の解の基本的性質として,特定の周期の成分が卓越する.これは地盤と構造物の固有周期である.入力する地震動の卓越周期と,地盤と構造物の各々の固有周期に着目することで,膨大な地震シミュレーションの計算結果に対し,より合理的な処理方法を考案することを進める.
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