研究実績の概要 |
安静時におけるマウスの脳活動の詳細な時空間構造、更にそれが脳血流に変換される様子を観察することに成功した。これにより、血流変化による領野間相互作用がカルシウムシグナルによる相互作用と対応していることが示された。さらに、安静時の自発活動は、脳全体に波及する波として発生していること、その波の各時点でのパターンが領野間相互作用のパターンと類似していることが見出され、領野間相互作用のパターンは、自発活動の波に埋め込まれていることが明らかになった。この知見は、安静時脳活動を利用した脳のネットワーク構造の解明や脳疾患診断の技術開発へ繋がることが期待される。研究結果はPNASに発表された(Matsui et al., 2016)。 広域カルシウムイメージング法を用いて、マウスの高次視覚野を全て同時に機能マッピングし、高次視覚野間の機能的な差異を見出した。(Murakami et al., in revision)。その結果、マウスの高次視覚野も腹側経路と背側経路に分類されることが明らかになった。側頭葉の側に位置する4つの高次視覚領野(腹側経路)は、どの領野も高空間周波数・低時間周波数の刺激に強く反応し“形”に関する視覚情報を表現していた。一方、頭頂葉に位置する5つの高次視覚野(背側経路)は多様な空間周波数・時間周波数特性を持っていることが明らかになった。近年、霊長類でも、背側経路には複数のサブ経路が含まれていることが明らかにされており、マウスにおいても同様に背側経路には複数のサブ経路があるものと思われる。背側経路のうち頭頂葉の内側部に位置する高次視覚野は、高空間周波数・低時間周波数の刺激に強く反応し、背側にありながら“形”の情報を表現していることを見出した。この情報はRS野に伝えられ空間ナビゲーションに役立っていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複数の領野への情報分配のメカニズムについて、V1から背側経路、腹側経路への情報分配について解決し、論文として公表した(Matsui et al., 2013)。 また、マウスの大脳半球全体を含む広範囲で機能マッピングを行う方法を開発した(Murakami et al., 2015)。この方法を用いて、マウスの高次視覚野には、背側経路、腹側経路の機能差に加えて、背側経路には複数のサブ経路が含まれていることを見出した(Murakami et al., in revision)。このように広域機能マッピングにより、マウスの高次視覚野の機能分化の理解が大きく進んだ。 また、マクロレベルでの領野間相互作用の理解が進んだ。安静時の機能的相関は、ヒトのfMRIで、領野間相互作用を調べるために広く使われているが、神経活動の相関とどれくらい対応しているのか不明であった。神経活動と直接的に相関するカルシウムイメージングと血流のイメージングを同時に行うことにより、血流変化による領野間相互作用がカルシウムシグナルによる相互作用と対応していることが示された(Matsui et al., 2016)。 さらに、発達期の自発活動の様子、レチノトピーの対応する場所に領野間の相互作用が強く見られること、V1と高次視覚野の相互作用よりも、高次視覚野間の相互作用が先に強くなることが見出され(Murakami et al., in preparation)、さらにこの発達期の自発活動の役割が明らかになった(Hagihara et al., 2016)。神経細胞の自発活動が、方位選択性の形成・成熟に必要ではないかとする従来の仮説を覆す結果である。 このように、マウスの高次視覚野の機能分化、情報分配のメカニズム、領野間のマクロレベルの相互作用の理解は、当初の目標を超えて飛躍的に進展した。
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