研究課題
統合失調症の原因遺伝子の一つであるDISC1はIP3受容体タイプ1型のmRNAのnon-coding領域に強く結合し神経突起内を微小管上を移動し、シナプス可塑性に関与する事を発見した(Nature Neurosci.2015)。IP3受容体1型のCa2+放出活性が、ハンチントン病のモデル動物脳やストレスを負荷した線状体などの神経細胞で減少しその原因がトランスグルタミナーゼ(TGase1)の活性化であることを質量分析で解明した。TGaseの活性化によりIP3受容体がトランスアミデーションによりロックされることによる。ヒトのハンチントン病由来の細胞でも確認した(PNAS 2014)。IP3受容体タイプ2型、3型のダブルノックアウトマウスは外分泌障害を出すが、涙腺の分泌に関わり、自己免疫疾患を起こし、組織の変性も引き起こすことを明らかにした(PLoS ONE 2014b)。パキスタンの家系で高熱病を呈し、発汗障害があり脳障害も起こすIP3受容体タイプ2型の変異をみいだした(J. Clinical Invest. 2014)。Ca2+ の波がどのようなメカニズムで産生されるかをフォスフォリパーゼCの各サブタイプをノックダウンしたところβ1β4によりヒスタミン刺激によるCa2+振動が大きく制御された(PLoS ONE2014a)。アストロサイトのCa2+ダイナミクスは脳機能に関わることを示した(Cell Calcium 2014)。IP3受容体からIP3により放出される三次メッセンジャーIRBITを発見しMolecular Cell 2006に報告したが、IRBITの総説依頼があり執筆した(BBA 2014)。Ca2+動態を制御する化合物を合成していたが容量性Ca2+流入を阻害するDPB162AEとDPB163AEの作用機序を明らかにした(Cell Calcium 2014)。
1: 当初の計画以上に進展している
IRBITの研究については、業績の概要で記載したとおり、多くのオリジナル論文を発表することが出来た。また、国際的にも評価されたようで、総説依頼され執筆した。更にIP3受容体と脳の可塑性について総説の依頼が来ており、その原稿の準備をしている。その意味で総説を依頼されるまで国際的に評価されたことは嬉しい。オリジナル論文を多く発表し、世界をリードしながら研究展開がなされている。
IP3受容体1型に特異的に結合する分子として申請者は酸化還元電位を検知するERp44シャペロンを同定し、Cell 2005に発表したが、そのERp44の役割を個体レベルで明らかにするために欠損マウスを作製して、その個体レベルでの解析を進め、行動、体液バランス、血液の動態につき解析を進めゆく。また、IP3受容体のIP3結合部位に結合してIP3により放出されるいわゆる三次メッセンジャーとしてIRBIT(申請者が命名)を同定しMolecular Cell 2006に発表した。IRBITには多くの分子が結合したが、今回CaMKIIαキナーゼをIRBITの結合パートナーであることを見出した。そこで、IRBIT欠損マウスを作製して、行動などの高次機能がどのように変化するかを行動学的、機能生理学的な解析を進める。特にCaMKIIα活性がどのような制御をうけるのかの解析も進める。脳神経機能の生理機能と病態との関連も明らかにしてゆく。また各種の指示薬をFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)法により作製してきたが、更に効率よくスクリーニングする方法をセットアップしたので、IP3指示薬の高感度のものを作製してゆく。脳は神経可塑性に重要な役割を果たすが、グリア細胞の一種であるアストロサイトが神経可塑性にどのように関わっているかをIP3受容体ノックアウトマウスなどを用いて明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (32件) (うち招待講演 13件)
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