研究課題
IP3受容体から放出されるIRBITが、カルモジュリン依存性キナーゼⅡα(CaMKⅡα)と結合して活性を負に制御することから神経可塑性への関与を見出した。IRBIT欠損マウスではCaMKⅡαが活性化されチロシンヒドロキシラーゼが活性化され、その結果、ドーパミン量が増加し多動障害や社会行動の異常など自閉症症状を示した(PNAS 2015)。統合失調症の原因遺伝子のDISC1が1型IP3受容体のmRNAのnon-coding領域に強く結合して神経突起内の微小管上を移動し、長期増強に関わることを発見した (Nature Neurosci.2015)。経頭蓋直流電気刺激はうつ症状の改善、記憶力の向上に効果があり、微弱な直流電気はアストロサイトの2型IP3受容体に働き脳活動を活性化することを解明した (Nature Commun. 2016)。末梢神経損傷により、軽い刺激でも強烈な痛覚刺激が長期的におきる。アストロサイトの2型IP3受容体が活性化されトロンボスポンジンが放出され、大脳皮質で神経回路網の再編成によることを発見した (J. Clinical Invest. 2016)。海馬の長期増強、長期抑圧や低頻度入力刺激により引き起こされる脱長期増強等がIP3受容体阻害剤を用いて制御されることを明らかにした(Learning & Memory 2016)。破骨細胞の分化過程で小胞体ストレスのセンサーであるIRE1αの阻害により破骨細胞分化の抑制ができこれに2型IP3受容体が関わる事を見い出した(J. Clinical Invest. 2015)。小胞体内腔のERp44が酸化還元状態に応じて小胞体アミノペプチダーゼ(ERAP1)との結合様式を変え、ERP1が小胞体から細胞質、そして血液中に分泌されてアンジオテンシンIIを分解し、血圧の調節を行うことを発見(Molecular Cell 2015)。シナプスでグルタミン酸は、NMDA受容体を介して細胞内に大量のCa2+を流入させ興奮作用をもつが、代謝型グルタミン酸受容体を介してIP3受容体活性化によりGABAA受容体を集合させ抑制作用を示す事を発見した (Cell Reports 2016)。
1: 当初の計画以上に進展している
統合失調症の原因分子の一つとしてのDISC1がシナプス可塑性、神経機能にもとづく学習に関わっていて、DISC1とI型IP3受容体は発生にも重要な分子であることが判明したことは予想外の発見であった。微弱な電気刺激が、ヒトでは「うつ症状の改善」、「記憶力向上」をするメカニズムがアストロサイトの2型IP3受容体から放出されるCa2+によるグリオトランスミターの分泌によること(Nature Communications2016) は、大きな発見であった。しかし、このことは逆に過剰な刺激を与えるとアストロサイトのカルシウムが過剰に出て、危険でもあるので、現在の治療に対してその使用にあたっての基準や規制が必要であることの警鐘をならす意味で大きな意義がある。強烈な慢性疼痛の原因が、アストロサイトの2型IP3受容体のCa2+放出により放出されるグリオトランスミターによることを明らかにし、大脳皮質の神経回路の再編成が出来た(J. Clinical Investigation 2016 in press)ことは、慢性疼痛の治療の面からも重要でインパクトは高い。この様に基礎的な研究が大きく臨床応用への成果となった。
アストロサイトに多く存在する2型IP3受容体とニューロンに多い1型IP3受容体からのCa2+放出動態が大きく異なることをみいだしているので各機能を部位特異的欠損マウス等で各々がシナプス可塑性に果たす役割とその機構を神経細胞との相関を調べながら解析する.申請者が発見したIP3受容体からIP3により放出されるIRBITがCaMKIIαの活性を抑制的に制御する事を見いだしたが、この現象がシナプス可塑性にどの様に関わるかをこれ迄に電気生理学的に得られたLTP, LTD, DepotentiationやLTP suppressionなどの電気現象との対応を目指してシナプス可塑性を担う分子群の相互作用の実態の解明へ電気生理学的並びに神経化学的手法をもちいて解析する。また申請者が発見したIP3受容体からIP3により放出されるIRBITはCaMKIIαを抑制的に制御することはシナプス可塑性を考える上で全く予想もしていなかった新しい概念であり、これはIP3受容体がシナプス可塑性に関わることのかなり重要な分子であるので、着実にスピードをあげながら解析を進めて行きたい。
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すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 1件、 査読あり 18件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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