研究課題
霊長類を含む哺乳類PIWI-piRNA複合体の解析を行い、本年度は以下の成果を得た。1. コモンマーモセット(Callithrix jacchus)精巣におけるpiRNAの配列、特にPIWIL1 (MARWI)に結合するpiRNAの詳細な解析を行い、その成果を論文として発表した(Hirano et al. 2014)。2. マウスは3種類のPIWI遺伝子しか持たないが、ヒトを含む他の多くの哺乳類は4種類PIWI遺伝子を有している。そこで、遺伝子改変が比較的容易なハムスター(Syrian hamster/Mesocricetus auratus)に着目し、PIWIL1の発現解析を行い、このPIWIが精巣のみならず卵巣においても発現していることを見出した。そこで、精巣と卵巣からそれぞれ特異的にPIWIL1認識する抗体を用いて複合体を単離精製し、そこに含まれるpiRNAの配列解析を行った。その結果、piRNAが由来するpiRNAクラスターに卵巣と精巣では大きな違いがあることを見出した。現在、卵巣におけるPIWIL1及びその結合piRNAの機能を理解するために、CRISPR法を用いて、ハムスターPIWIL1遺伝子の破壊、つまり、PIWIL1-KOハムスターの作製を進めている。3. ショウジョウバエPiwiやマウスMIWI2は核内で特定のトランスポゾンの抑制に関与している。この抑制はクロマチンの構造変化による転写レベルの抑制であるが、その分子機構は不明である。そこで、抑制に直接関与する核内複合体を単離同定する方法の樹立を試みた。このため、PIWI依存的に発現が抑制されるトランスポゾン上に特異的に形成されるクロマチンの構成因子の同定をCRISPR法を用いたクロマチンIP/ゲノムIPにておこなった。この方法の確立のために、主に、ショウジョウバエ卵巣由来の培養細胞を用いている。この方法が確立できれば、順次、哺乳類生殖細胞由来の培養細胞でも特定クロマチン領域の単離精製を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度には、霊長類PIWI-piRNAに関する最初の論文を出すことができた(Hirano et al. 2014)。この論文ではトランスポゾンとpiRNAの関係を世界ではじめてトランスポゾンのサブファミリーにまで進め詳細に解析した。piRNAクラスターの役割を明確にすることができた。さらにpiRNAクラスターにはトランスポゾンのみならず、偽遺伝子が存在することを見出した。これはpiRNAクラスターがトランスポゾンのみならず、偽遺伝子由来のpiRNAを介して、機能的な親遺伝子(functional cognate gene)の発現制御に関与しているというpiRNAの全く新しい機能を示唆する世界ではじめての発見である。また、各種哺乳類PIWIタンパク質に関する抗体の作製も順調に進んでいる。さらに、核内複合体の精製系の確立も順調に進行している。一方、生化学的解析が遅れているが、その理由は、生化学に適した細胞株が無いことに起因する。文献ではPIWIが発現していると報告されている細胞株をいくつも試したが、そのすべてにおいてPIWIの発現は見られなかったか、極めて弱いものであった。これは著者らが用いている抗体が不適切または特異性の低いもの(つまり、PIWIタンパク質以外のものを検出している)によると考えられる。生化学的解析が可能な細胞株を得るために、現在、マウス精巣由来の細胞の不死化を進めている。
霊長類PIWIに関しても順次抗体作成を継続しており、解析を進めていく。既に初期成果としてマーモセット精巣特異的なpiRNAの詳細な配列解析を進めているが、卵巣に特異的なpiRNAの解析も進める。また、マウス卵巣ではPIWIタンパク質の発現がほとんど見られないが、ハムスターを含む多くの哺乳類ではPIWIL1、PIWIL2、PIWIL3が卵巣で発現していることを確認している。ハムスターを用いて、卵巣におけるこれらPIWIと結合するpiRNAの解析を進めていく。さらに、CRISPR-Cas9法を用いて、順次、ハムスターのPIWIL1、PIWIL2、PIWIL3遺伝子に変異を導入した動物個体の作製を試みる。個々の遺伝子改変ハムスターにおける卵形成過程を解析し、PIWI-piRNAの卵巣における機能を解析する。一方、マウスpiRNAデータベースの解析から、piRNA産生を誘導すると思われるシス配列候補を幾つか同定した。これらのシス配列の下流に任意の配列を有する発現ベクターを作成し、それを用いて、トランスジェニックマウスの作成を試みているが、その実験を継続する。また、生化学的解析に関しては、哺乳類生殖細胞由来の細胞株が入手または独自に樹立できるまで、各種予備実験をハエ生殖細胞由来細胞株を用いて進める。本年度は、特に核内複合体の同定法(CRISPRを用いたゲノムIP等)を確立する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うちオープンアクセス 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 13件) 備考 (1件)
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