研究課題
哺乳類の生殖エピゲノム形成機構をPIWI-piRNA分子経路の解析をとおして理解するために様々な解析を行い、本年度は以下の主な成果を得た。1. 研究材料の作製:マウスPIWIL2とPIWIL4及びヒトPIWIL2に対するモノクローナル抗体を作製した。これらを用いてマウス精巣及びヒトiPS細胞から複合体の精製を進めている。また、哺乳類PIWIによる生殖エピゲノム形成機構の理解が遅れている決定的な理由は適当な培養細胞が無いためである。細胞株の樹立を目指し、マウス精巣において、PIWIが発現する細胞をDsRedで可視化できるトランスジェニックマウスを作製した。2. ゲノム改変ハムスターの作製:多くの哺乳類ではPIWI遺伝子が4種類存在するがマウスでは3種類のみである。ハムスターはヒトと同様、4種類のPIWI遺伝子を有し、その内の2種類は卵巣での発現が認められる。これら卵巣で発現しているPIWIのKOハムスターをCRISPR/Cas9法を用いて進めている。採卵から移植まで手順のさまざまな改変を試み、最終的に、以下の手順で産仔を得ることができるようになった:過排卵処理した雌のハムスター(8-12週)を雄と交配し、翌日に1細胞期の受精卵を採取した。1細胞期の初期胚の細胞質にマイクロマニピュレーターを用いてCas9 mRNAとgRNAをマイクロインジェクションし、すぐに0.5日目の偽妊娠ハムスターの卵管に移植し、(15.5日目に)産仔を得た。3. クロマチン解析のための技術の確立:哺乳類培養細胞やマウス・ハムスターの卵巣と精巣を用いてクロマチン解析系(クロマチンIP、3C/HiC法やATAC-seq等)の立ち上げを行ない、それらを用いた解析結果が出始めている。特に標的クロマチン上に形成される機能複合体の単離同定を行うための新しい技術開発を行った。これはCRISPR/Cas9系を応用したものであり、特定クロマチン領域に結合する因子の同定に重要な技術であると考えている。
2: おおむね順調に進展している
モデル生物としてショウジョウバエを用いたRNAi/RNAサイレンシングの研究の成果を土台にして、本基盤(S)研究では哺乳類を用いたPIWI/piRNA研究を開始したため、動物舎/ゲノム改変動物の作製準備等に時間を要した。しかし、着実に研究は進んでおり、必要な解析技術や解析材料(抗体等)も研究室内で作製、確立することができた。残りの研究期間で、目標は達成できるものと考えている。また、成果発表(論文)に関しては、まだ、その多くがひとつ前の基盤(S)研究(2008年4月—2013年3月)「転移因子とArgonauteの軍拡競争からゲノムの進化を探る」の成果である。平成28年度からは本基盤(S)研究の成果を順次報告できるものと考えている。ハムスターを用いた卵巣におけるPIWI/piRNAの機能解析、マウス精巣由来細胞株の樹立、そしてゲノムIPを用いたクロマチン因子の単離同定に関しては「予定以上の成果が見込まれる」可能性が高い。
哺乳類PIWI/piRNAの生化学的解析を進めるため、現在までに様々な培養細胞を試したが、いずれも生化学的な解析には適さないことが判明した。このため、PIWI陽性細胞を可視化できるトランスジェニックマウスを作製した。これを用いて、PIWI陽性細胞をソーティングし濃縮した分画から細胞の株化を試みている。また、培養細胞やマウス・ハムスターの卵巣と精巣を用いて解析系の立ち上げを行ってきた。これらの解析技術を用いて、piRISC複合体の機能解析を進める。特に標的クロマチン上に形成される機能複合体の単離同定を進め、同定された個々の因子に関してPIWI/piRNA分子経路における役割を免疫染色法や機能阻害実験等を行うことで明らかにする。これらの成果をもとに、哺乳類piRISCが関与する生殖細胞におけるエピゲノム形成機構を理解する。一方、作製した哺乳類PIWIに対する抗体を用いて、系統的にそれらに結合するpiRNAの情報解析を進めていくことで、piRNA機能の全貌を明らかにする。特に、転移因子以外の標的候補を丹念に解析し、TE抑制機構のみならず、piRNAが関与する細胞の遺伝子発現制御機構の理解を深める。また、ゲノム改変ハムスターの作製に関しては、現在、着実に改良が進んでおり、目的の改変動物が得られるものと予想している。これらKOハムスターの表現型、特に精巣と卵巣、を精子形成・卵子形成過程とエピゲノム形成に着目して進めていく。さらに、人工的に生殖細胞エピゲノムの改変を可能にする技術の開発に関しては、現在、トランスジェニックマウスの作製を進めており、表現型を指標に目的の個体を同定し、そのような表現形が出現した場合、雌で系統を維持しながら、生まれてくる雄の精巣のエピゲノム解析を進める。特のpiRNAをデザインした領域のDNAメチル化、ヒストンの修飾、そしてクロマチンの凝縮等の状態を既に確立している解析系を用いて明らかにする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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