研究課題
哺乳類生殖エピゲノム形成機構をPIWI-piRNA複合体の解析をとおして理解するための様々な解析を行い、本年度は以下の主な成果を得た。1.Piwi-piRNA核内複合体の新規構成因子としてPanoramixとNXF2を同定した。これら2因子はお互いの安定性に寄与しており、また、Piwi-piRNA核内複合体による標的トランスポゾンの転写レベルの抑制に直接関与している。現在、マウスNXF2に対する抗体の作製を進めている。2.ハムスターPIWIL1、PIWIL2、PIWIL3タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体を作成し、それを用い、ハムスター卵巣より、それぞれが形成するRISC複合体を精製した。現在、それぞれの複合体に含まれるpiRNAの配列解析を進めている。3. CRISPR-Cas9法を用いて、ハムスターのPIWIL1及びPIWIL3遺伝子に欠失を導入した動物個体(KOハムスター)を作製した。PIWIL1 KOハムスターは雄雌共に不稔であった。これは、哺乳類におけるPIWI変異による雌不稔の初めての例であり、学術的な意義を大きい。一方、PIWIL3 KOハムスターは現在まで雄雌共に生殖能に関する異常は見られていない。4.マウス精子形成過程におけるクロマチン構造変化をATAC-seq法を用いて行い、特定のゲノム領域のクロマチン凝集が経時的にダイナミックに変動することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究目標として以下4点を挙げた。(1)Piwi-piRNA核内複合体の同定:培養細胞を用いて、新規Piwi-piRNA複合体構成因子としてNXF2を同定した。この因子は核―細胞質輸送因子であるが、標的トランスポゾン抑制に直接関与していることが判った。現在、マウスNXF2抗体を用いて、マウス精巣より機能複合体の単離を進めている。(2)哺乳類、特に霊長類特異的なpiRISCの解析:マウスと異なり、ヒトを含む多くの哺乳類では卵巣でもPIWIが発現している。ハムスター卵巣におけるこれらPIWI結合性piRNAの解析を進めた。ハムスターPIWIに対する特異的なモノクローナル抗体を作成し、RISC複合体を精製した。現在、それぞれの複合体に含まれるpiRNAの配列解析を進めており、哺乳類卵巣におけるpiRNAの標的遺伝子の詳細を明らかにしつつある。(3)CRISPRゲノム編集を用いたPIWI-KOハムスターの作製:ハムスターPIWI(PIWIL1及びPIWIL3)遺伝子欠失個体を作製することができた。PIWIL1 KOハムスターは雄雌共に不稔であり、現在、精子形成過程及び卵子形成過程の詳細を調べている。これは、哺乳類におけるPIWI変異による雌不稔の初めての例である。一方、PIWIL3 KOハムスターは雄雌共に現在のところ生殖能に異常は見られず、今後、加齢に伴う稔性の低下等が見られるか観察を続けていく。(4)人工生殖細胞エピゲノム改変技術の開発:一つ一つの実験が時間を要し(すべてトランスジェニックマウスを用いて行わなければならないため)、未だ、明確な結果は得られていない。一方、マウス精子形成過程におけるクロマチン構造変化をATAC-seq法を用いて行い、特定のゲノム領域のクロマチン凝集がダイナミックに変動することを見出した。
哺乳類生殖(幹)細胞系エピゲノム解析が遅延している理由は、生化学的解析に適した培養細胞が無いことに寄る。平成28年度も様々な培養細胞株を試してみたが、解析に利用できるものは見つからなかった。現在、独自に哺乳類生殖(幹)細胞系細胞株の樹立を試みている。これ以外の研究に関しては、作製を進めていたモノクローナル抗体やPIWI KOハムスター個体を得ることができた。また、各種エピゲノム解析法(ATAC-seq, HiC, ChIP-seq等々)をラボ内で確立することができ、さらに、独自に特定ゲノム領域に結合しているクロマチン因子同定法(TALEを用いたゲノムIP)を開発した。これらの解析法と各種モノクローナル抗体、そして、PIWI KOマウスやPIWI KOハムスターを用いることで、今後、哺乳類生殖エピゲノム形成機構、エピゲノム形成のダイナミクス、そしてトランスポゾン抑制機構とその生殖幹細胞形成・維持機構への関与が可及的に明らかになるものと思う。特に卵形成過程におけるエピゲノム形成機構の解明に大きく貢献できるのではと期待している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 9件) 備考 (1件)
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