研究課題/領域番号 |
25221004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 泰己 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20373277)
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研究分担者 |
洲崎 悦生 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10444803)
大出 晃士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40612122)
田井中 一貴 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80506113)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 概日振動 / リン酸化 / 温度補償性 / 自律発振機構 / 変異マウス作製 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究に於いて、明確な進展が得られたこととして、本研究の2つの柱である温度補償性の理解、周期長制御の理解に密接な関係を見出したことが挙げられる。すなわち、昨年度までに見出していたリン酸化産物と酵素(CKIδ)の安定的な複合体結合能が、試験管内での温度非依存的なリン酸化反応速度の担保だけでなく、概日周期長制御にも重要であることが明らかとなった。 上記リン酸化産物結合を阻害するようなCKIδ変異や、低分子化合物は、リン酸化産物結合による酵素活性の拮抗的阻害を抑制し、CKIδ活性を賦活化、さらに概日周期長を短縮することが見出された。これらの結果は、リン酸化産物結合機構が、実際の概日時計機構においても重要な役割を果たしていることを強く示唆する。特に、本研究の3つ目の柱である、個体レベルでの分子機構の確認を達成するために、リン酸化産物結合が減弱した変異CKIδを発現するマウスの概日行動周期長が顕著に短縮することを確認することができた点を強調したい。これらの結果は、in vitroでのリン酸化反応速度制御の徹底的な理解によって、個体全体の生理活性リズムを制御するための知見を得ることができる好例を提示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 温度補償性:温度非依存性のタンパク質リン酸化反応の理解と設計 CKIδ/ε によるリン酸化反応速度が温度に依存しないという、常識に反する現象に対して、3年間の研究によって、具体的な動作原理(温度依存的にリン酸化産物と酵素の結合が安定化される)を提唱し、さらに低分子化合物および、酵素変異体を用いて、動作原理を検証することが出来た。従って、我々は温度非依存性のリン酸化反応の深い「理解」を得た。さらに、酵素変異体解析から、温度依存的なリン酸化産物との結合に重要な酵素ドメインを決定しており、「設計」へ向けて研究を展開している。 2. 自律発振機構:概日振動体発振・周期長制御機構の理解と設計 周期長を短縮する低分子化合物候補については、上記の温度補償性の理解に基づき、すでにATAを得た。また、タンパク質についてもCKIδおよびCRY1について、顕著な周期長短縮効果を示す領域をアミノ酸残基レベルで同定している。これらの結果は、タンパク質構造に基づく予測・変異導入を行っており、周期長を制御するタンパク質の設計を部分的に達成している。 これらの結果は同時に、CKIδやCRY1がリン酸化を駆動力とする振動子を構成する有力な候補であることを裏付けている。 3. 個体レベルでの概日振動体動作原理の検証 100%ES細胞由来マウス作製技術を運用し、実際にこの技術を用いて、CKIδやCRY1の個体レベルでの機能解析を進めている。さらにノックアウト作成技術や、個体の行動・睡眠覚醒リズム解析の新規手法を開発した。これらの手法は、開発のみならず、実際に研究グループの中でコンスタントに使用しており、1. や 2. で得られた知見の個体レベルでの検証を進めている。当初の目標通り、計画通りの進行である。
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今後の研究の推進方策 |
現在得られている、動作モデル「温度依存的なリン酸化産物結合による温度補償性機構」をさらに多角的に検証する。現在、細胞内でのPer2安定性にもとづいて得られた、R178, K224それぞれのアミノ酸残基の変異CKIδを用いて、リン酸化産物結合と温度非依存性リン酸化の関係を検証する。K224変異によって、リン酸化産物結合活性が失われることを(検証済)に加えてR178変異による結合活性の有無、さらに、これらの変異タンパク質を精製し、in vitroのリン酸化アッセイによって、リン酸化反応の温度依存性を直接的に測定する。TTBK1を対象とした、異なるタンパク質への温度非依存的リン酸化進行機能の付与を引き続き行い、温度補償機構の「設計」を行う。 さらに、これらの変異CKIδを導入した際に概日時計振動周期長の温度補償性が崩れるかを検証する。変異CKIδ導入マウス(作成済)から培養細胞(MEF)や視交叉上核スライスを調整し、これらの細胞や組織を異なる温度で培養することで、概日振動を概日時計プロモーター下流で発現するLuciferase レポーター(MEF)や電気活動(SCNスライス)によって測定することで、周期長の温度依存性を測定する。
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