研究課題
上皮や神経細胞の微小管は中心体以外の部位から伸長するが、そのマイナス端を繋ぎ止める機構、さらに、このような微小管配向の生理的意義は不明である。本研究では、微小管のマイナス端に結合して安定化させる分子CAMSAP1/CAMSAP3が、上皮細胞の構築、神経軸索の伸長、脳組織の構築等において果たす役割を明らかにする。上皮細胞構築におけるCAMSAP3の役割 マウス小腸上皮細胞では、CAMSAP3が細胞頂端部で斑状に分布しており、個々の斑から微小管が伸びていた。CAMSAP3変異マウスを解析したところ、 微小管の配向がランダム化していた。そして、核やゴルジ体等の細胞小器官が定位置から外れ、細胞の高さも短縮する傾向にあった。以上の結果から、CAMSAP3が頂端部に局在して微小管のマイナス端を捉え、プラス端を下方に伸長させることにより、微小管の配向パターンを決めていること、そして、この微小管配向がオルガネラの配置にとって重要であることが明らかとなった。さらに、CAMSAP3が頂端部に局在するためのアミノ酸配列を同定できた。神経系構築におけるCAMSAPの役割 典型的な神経細胞は、複数の樹状突起と一本の軸索を伸ばす。マウスの海馬神経細胞を培養してCAMSAPの分布を調べると、CAMSAP2とCAMSAP3が差次的に分布していた。変異マウスから海馬神経細胞を分離、培養して神経突起のパターンを解析すると、CAMSAP2欠失の場合は神経突起の全体的な伸長不全が、CAMSAP3変異の場合は軸索が複数形成されるという異常が観察された(未発表)。また、CAMSAP2、3の単独ノックアウトマウスは生存するが、二重変異は誕生前に死亡する。二重変異体胎児期の脳を調べると、種々の解剖学的異常が観察され、細胞レベルで異常が顕著だったのは放射状グリアの形態であった(未発表)。
1: 当初の計画以上に進展している
微小管の多様な役割が明らかにされてきたが、従来は、個々の微小管の機能を差次的に研究する手段が限られており、細胞内すべての微小管について十把一絡げに論じられることが多かった。CAMSAPを研究することにより、初めて、中心体微小管 対 非中心体微小管など、重合起源が異なる微小管の差別的役割の研究が可能になった。そして、CAMSAP3変異マウスの小腸上皮細胞の解析を通じて、長年の謎であった、上皮細胞における微小管配向の機構と、その細胞構築における役割を初めて明らかにすることができた。一方、CAMSAPの役割については予測できるものとできないものとがあった。小腸上皮細胞で明らかにしたCAMSAP3の機能は、その分布が分かった時点で、大凡予測できたものだが、神経軸索で果たす役割は、軸索の数を制御するという予測を超えたものであった。また、CAMSAP2とCAMSAP3の分布の違い、機能分担についても、本研究を進めることにより、始めて明らかになってきた。未発表の予備的結果も含め、これらの分子の組織・器官形成における役割を追求していけば、CAMSAP-微小管系のさらなる未知の機能が明らかになる可能性が高く、予定以上の成果が見込まれると自己評価している。
CAMSAPタンパク質は、種々の上皮器官で発現する。今後は、小腸以外の他の器官におけるCAMSAPの分布、変異マウスにおける異常を探る。予備的な観察によれば、一部の上皮器官(腎臓等)においては、組織構築異常だけでなく、顕著な機能異常が示唆された。異常を詳しく解析することにより、個々の細胞の構築異常と器官全体の生理機能異常の関係を明らかにし、その延長として、CAMSAP-微小管系と病気との関わりを明らかにしたい。神経組織の問題に関しては、進行中の研究を継続する。CAMSAP3による軸索の数の制御については、本分子とMAP1Bの相互作用が関わる可能性が予備的実験により示唆されている。MAP1Bは軸索伸長に必要とされる分子で、今後は、両者の協調的作用を検討する。神経突起の主要な微小管は基本的に中心体に依存しない微小管であることから、これまで謎とされている種々の微小管関連の問題に答えが出せると期待している。一方、放射状グリアの形成異常については、焦点を合わすべき問題がまだ手探りの状態だが、微小管関連分子のライブイメージング等を通じて異常の原因を解明する。これにより、放射状グリアの形成における微小管の役割について、新しい視点が生まれるものと期待している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
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