研究課題
植物成長を制御する新しい細胞間シグナルとして,翻訳後修飾を伴った短鎖分泌型ペプチドに注目が集まっている.本研究は,翻訳後修飾ペプチドホルモンのさらなる探索や,既知因子の受容および細胞内情報伝達機構の解明を基軸としながら,翻訳後修飾のメカニズム,細胞外での分子動態などを解析し,翻訳後修飾ペプチドホルモンを介した植物形態形成や環境応答の分子機構を明らかにすることを目的としている.今年度は,ゲノム情報に基づいたペプチドホルモン候補のスクリーニングとLC-MSによる成熟型構造解析により,21アミノ酸のチロシン硫酸化ペプチドを新たに同定した.このペプチドは根の中心柱で発現し,欠損株では土壌イオン環境応答に異常が見られることが明らかになりつつある.また,ほぼ整備が完了した受容体キナーゼ発現ライブラリを用いて,茎頂メリステム形成に関わるペプチドホルモンであるCLV3がダイレクトに結合する受容体群の解析を行なった結果,従来から知られているCLV1に加えそのホモログであるBAM1に結合したが,もうひとつの受容体としてCLV3シグナリングに関与すると考えられていたCLV2には結合しないことが明らかとなった.これらの結果から,CLV1とBAM1が真のCLV3受容体であり,CLV2は間接的にCLV3シグナリングに関与する補助因子である可能性が示された(Plant J. 2015).さらにこの受容体キナーゼ発現ライブラリを用いて,根端メリステム形成に関わるペプチドホルモンRGFの受容体探索を進めた結果,RGF が直接結合する3つの受容体キナーゼを同定し,これらが重複してRGFの受容に関わることを明らかにした(PNAS in press).
2: おおむね順調に進展している
新しいシグナルの同定という研究は,同定できるかできないかの2者択一であるが,今年度は,ゲノム情報に基づいたペプチドホルモン候補のスクリーニングとLC-MSによる成熟型構造解析により,21アミノ酸のチロシン硫酸化ペプチドを新たに同定した.このペプチドは根の中心柱で発現し,欠損株では土壌イオン環境応答に異常が見られることが明らかになりつつあることから,今後の解析に期待ができる.また,ほぼ整備が完了した受容体キナーゼ発現ライブラリを用いて,茎頂メリステム形成に関わるCLV3や根端メリステム形成に関わるRGFの受容体探索を行ない,いずれのケースでもリガンドがダイレクトに結合する受容体キナーゼを同定することに成功した.これらの結果は,受容体キナーゼ発現ライブラリを用いた受容体探索法の確実性や有効性を証明するものであり,全体として研究は順調に進んでいると考えている.
新しいチロシン硫酸化ペプチドの発見やRGF受容体の同定に成功するなど,順調に成果が出ているため,今後の研究計画に大きな変更はない.成熟型構造や受容体は既に解明に成功しているが,生理機能がまだ分からないリガンド-受容体ペアが残されているため,引き続き解析を続けていく.また機能が解明されたリガンド-受容体ペアについては,その下流情報伝達系の解析を進める予定である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Proc Natl Acad Sci U S A
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http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~b2