研究課題/領域番号 |
25221107
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
深津 武馬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 首席研究員 (00357881)
|
研究分担者 |
二河 成男 放送大学, 教養学部, 教授 (70364916)
古賀 隆一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (80356972)
細川 貴弘 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80722206)
|
研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
|
キーワード | 昆虫 / 共生 / 大腸菌 / 分子機構 / 実験進化 |
研究実績の概要 |
【6種共生細菌のゲノム解析】培養できないBは単離中腸から、培養できるC, D, E, Fの完全ゲノム配列を決定した。培養できない共生細菌A(4.5 Mb)についても完全決定直前の状況である。 【フォスミドライブラリースクリーニング】 これまでに105,167個の卵由来の10,623頭の成虫をスクリーニングし、共生細菌Cについてゲノムの91.7%(染色体は90%、プラスミド1は95%、プラスミド2は100%)をカバーする366クローンの1次スクリーニングを完了し、15の候補クローンを選抜した。うち4クローンは互いに大きくオーバーラップしており、約13 kbの共通領域およびその近傍の11遺伝子が候補として浮上した。うち5遺伝子は、予備的に行った共生細菌Dゲノムライブラリーのスクリーニングでも相同領域が良好なパフォーマンスを示した。 【大腸菌人工共生進化実験】人工的に大腸菌に感染させたチャバネアオカメムシを継続的に累代飼育することで、共生関係の安定化や適応度の上昇をモニターした。限定された研究期間中に進化的な変化が観測できるよう、DNAミスマッチ修復酵素遺伝子mutS欠損大腸菌系統を作成し、この高速進化大腸菌系統mutSを感染させた宿主を累代飼育した。特筆すべきことに、すでにいくつかの系統が不安定ながら最高で80%を超える非常に高い羽化率を示しはじめた(大腸菌感染虫の羽化率は通常10%程度かそれ以下)。さらに、それらの大腸菌系統のコロニーは小型で隆起しており、もとの系統の扁平なコロニーとは明らかに異なっていた。 【その他】チャバネアオカメムシと他種カメムシ類の間の共生細菌の生態的共有の発見、チャバネアオカメムシおよび近縁種における雌特異的な中腸共生器官の特殊化の発見、ヒメナガカメムシにおける菌細胞共生細菌の同定及び発生過程の解明など。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は順調に進展しており、ほぼ予定通りの成果が見込まれる状況にある。 【6種共生細菌のゲノム解析】すでに共生細菌B-Fの全ゲノム配列は決定済みである。共生細菌Aは培養不可能なこと、偽遺伝子が多いことなどから少し時間がかかったが、概要ゲノム配列は決定済みで、すでにフィニッシングの段階にある。 【フォスミドライブラリースクリーニング】共生細菌Cについてはほぼ全ゲノム領域をカバーするスクリーニングが完了し、共生関連遺伝子を含む可能性が高い複数のゲノム領域を同定した。共生細菌Dについても同様のスクリーニングが順調に進捗中である。最終年度までに共生細菌Eについてもスクリーニングを進める予定である。 【大腸菌人工共生進化実験】高速進化大腸菌系統ΔmutSを感染させた宿主カメムシを累代飼育していくうちに、すでにいくつかの系統が不安定ながら最高で80%を超える非常に高い羽化率を示すようになり(大腸菌感染虫の羽化率は通常10%程度かそれ以下)、さらに、それらの大腸菌系統のコロニーは小型で隆起しており、もとの系統の扁平なコロニーとは形態的に明らかに変化していた。大変に興味深い結果である。
|
今後の研究の推進方策 |
【6種共生細菌のゲノム解析】28年度中に共生細菌Aのゲノム配列も完全決定し、それらの比較解析により同じ宿主に共生能力を有する異なる共生細菌のゲノムのどこが共通でどれだけ異なるのかを生物情報学的に解析する。 【フォスミドライブラリースクリーニング】共生細菌Cと同様に、共生細菌Dについても28年度中にスクリーニングを完了させ、共生細菌Eについてもスクリーニングを開始し、最終年度までに完了させる。もって最終年度までに培養できる主要な共生細菌C, D, Eについて、共生関連遺伝子を含む複数のゲノム領域を網羅的に同定する。 【共生関連遺伝子の同定および機能解析】すでに共生細菌Cにおいて、共生関連遺伝子候補の同定および機能解析が進行中である。28年度以降は共生細菌Cに加えてD, Eにおいても同様の解析を進め、最終年度までに複数の共生細菌ゲノム上にコードされる共生関連遺伝子群およびそれらの機能を解明する。 【大腸菌人工共生進化実験】すでに高速進化大腸菌系統ΔmutSを感染させた宿主カメムシの継代飼育過程で、いくつかの系統が不安定ながら最高で80%を超える非常に高い羽化率を示すようになり(大腸菌感染虫の羽化率は通常10%程度かそれ以下)、それらに感染する大腸菌系統のコロニーに形態的な変化がみられている。平成28年度以降も同様に継代飼育を継続するとともに、ゲノムのリシーケンシングによるこれら大腸菌変異株におけるゲノム変異の同定、RNAseqによる遺伝子発現変化の解析、ゲノム変異と遺伝子発現変化の相関解析や、候補原因遺伝子の破壊実験等をおこない、共生進化過程の詳細な記載およびゲノムレベルの進化基盤を解明する。
|