研究課題/領域番号 |
25221203
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
植田 和光 京都大学, 物質―細胞統合システム拠点, 教授 (10151789)
|
研究分担者 |
赤津 裕康 医療法人さわらび会福祉村病院長寿医学研究所, その他部局等, その他 (00399734)
戸田 好信 天理医療大学, その他部局等, 教授 (10444465)
長尾 耕治郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40587325)
田中 亜路 安田女子大学, 家政学部, 講師 (60509040)
|
研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
|
キーワード | コレステロール / 1分子生物学 / 動脈硬化 / トランスポーター / 膜環境 / 多能性幹細胞 / 阻害剤 |
研究実績の概要 |
本年度は、脂質輸送に関与するABC蛋白質が機能する細胞膜環境を中心に解析した。その結果、コレステロール恒常性に関与するABC蛋白質であるABCA1、ABCG1、ABCG4がそれぞれ異なる細胞膜マイクロドメインに局在すること、これらのABC蛋白質は細胞膜中で脂質を動かすことによってラフトと呼ばれるコレステロール豊富なマイクロドメインの再編を行っていることを示した(Sano, O. PLoS One)。これらのABC蛋白質はそれぞれ輸送基質が濃縮した膜ドメインで最も高い活性を発揮することが明らかになったが、それが輸送基質の濃度に依存しているのか膜環境が重要であるのか不明であった。次に、毛細胆管膜でホルファチジルコリンとコレステロールを胆汁中に排出するABCB4の活性を検討することにより、ABCB4が細胞膜中のスフィンゴミエリン豊富な膜ドメインに局在し、輸送活性がスフィンゴミエリンに依存していることが明らかになった(Zho, Y. J Lipid Res)。この結果によって、ABC蛋白質の輸送活性が膜環境に依存していることが明らかになった。さらに、小腸上皮中へのコレステロール吸収を担うNPC1L1の阻害剤の開発に成功した(Chiba, T.PLoS One)。ABCA1は小腸上皮から体内へのコレステロール輸送に関与しており、ABCA1とNPC1L1の機能の協調性の解明の進展が期待できる。 HDL(善玉コレステロール)形成の鍵を握るABCA1の輸送活性の簡便な測定系の確立に成功した(Omura, R. J Lipid Res)。またABC蛋白質発現パターンの利用して多能性幹細胞を特異的に除去する化合物を開発した(Kuo, T-F. J Am Chem Soc)。さらに、本研究経費で購入した全反射顕微鏡を用いた1分子解析によって、二量体化できないABCA1変異体を作成することに成功した。本変異体の解析によって二量体のメカニズムと生理的意味の解明が進展しつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでABC蛋白質の活性が膜環境によって調節されていることは示唆されていたが、輸送基質の濃度に依存しているのか膜環境が重要なのかは不明であった。本年度に行ったABCB4の研究は、ABCB4がホルファチジルコリンを生理的基質として輸送するにもかかわらず、活性がスフィンゴミエリンに依存していることを示しており、膜環境が重要であることが明らかになった。ABCB4はスフィンゴミエリンが豊富な毛細胆管膜で機能しており、脂質輸送体の機能の進化を考えるうえで重要である。また、これまでエゼチミブが唯一の阻害剤であったNPC1L1に作用の異なる阻害剤を見出したことは、NPC1L1の作用メカニズム解明およびコレステロールの体内循環の解析を進める上で大きな前進である。さらに、二量体化できないABCA1変異体を作成することに成功したことは、二量体のメカニズムと生理的意味の解明にとって大きな前進である。研究は当初の計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、二量体化できないABCA1変異体を全反射顕微鏡で詳細に観察するとともに、産生されるHDLの質を解析することによって、二量体化のメカニズムと生理的意味の解明を行う。さらに、ABC蛋白質の輸送途上および外向きに開口した構造の結晶が本年度得られつつある。次年度にこれらの構造の詳細な解析を進めることによって、これまで不明であった真核生物の排出型ABC蛋白質の基質輸送メカニズムの解明を大幅に進展させることが期待できる。
|