研究課題/領域番号 |
25221204
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 伸一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00197146)
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研究分担者 |
伯野 史彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30282700)
西原 真杉 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90145673)
伊藤 昭博 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (40391859)
佐伯 泰 公益財団法人東京都医学総合研究所, その他部局等, その他 (80462779)
梅原 崇史 国立研究開発法人理化学研究所, その他部局等, その他 (20415095)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 代謝・内分泌制御 / インスリン様活性 / インスリン受容体基質 / 細胞内シグナル伝達 / 増殖 / 糖取り込み / 翻訳 |
研究実績の概要 |
我々は、インスリン/インスリン様成長因子(IGF)の重要なシグナル伝達因子であるインスリン受容体基質(IRS)が、インスリン/IGF刺激非依存的に細胞内で多種類のIRS結合タンパク質(IRSAPと命名)と相互作用し、巨大な分子複合体(IRSomeと命名)を形成しており、他の因子の刺激や生体が置かれた生理状態に応答してIRSomeの構成タンパク質がダイナミックに変化し、インスリン/IGFシグナル・生理活性を変化させていることを発見している。 本年度は、IRS-1が、μ1を含むAP-1複合体と相互作用し、細胞内小胞へ輸送されることが、IGFによる細胞増殖誘導に必要であることが明らかとした。この結果から、IRSは細胞膜付近のみで機能するのではなく、エンドソーム様小胞で増殖誘導を仲介するという新しい概念を提示することができた。 一方、IRSはDGK (diacylglycerol kinase)ζとも結合することを見出した。DGKはdiacyglycerolをリン酸化し、phosphatidic acidを産生する酵素で、PIP5K1αなど他のタンパク質とも相互作用する。我々は、脂肪細胞を用いた成果から、「インスリン刺激に応答してIRS-1からDGKζとPIP5K1α複合体が乖離し、PIP5K1αとDGKζが局所的な協調的活性化が起こる。その結果上昇するPIP5K活性とこの産物によるPI3K経路の活性化などを介してGLUT4の細胞膜移行が促進され、糖取り込みが増加する」ことを明らかにした。IRS-1とDGKζの相互作用を阻害するような低分子化合物は糖取り込みを増加させる可能性が考えられたため、化合物ライブラリーをスクリーニングした結果、数種類の化合物の取得に成功した。TNF-α処理によりインスリン抵抗性が生じている脂肪細胞をこれらの化合物で処理したところ、糖取り込みが増加、すなわちインスリン抵抗性の解除が認められた。 この他にも、翻訳制御に関与するPABPC1などもIRSと相互作用し、翻訳に影響を及ぼすことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IRSに相互作用する新しいIRSAPの同定に成功し、これらのインスリン様活性の調節に果たす役割の解明が順調に進んでいる。さらに、IRSといくつかのIRSAPの相互作用を修飾することによりインスリン様活性を調節できることを示すことができ、これらを修飾するような低分子化合物の取得にも成功している。更に、数種類のIRSAPのKOマウスやIRSAPの変動が起こった際の表現型を解析するためのモデル動物の作成も進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今回、同定・選択したIRSAPについて、IRSとの相互作用機構や生理活性発現機構の解明を、培養細胞系を用いてこれまでの方針で続行する。 IRSと選択したIRSAPの相互作用を阻害する低分子化合物のスクリーニングについては、理化学研究所基幹研究所が所有する化合物ライブラリーのスクリーニングを引き続き行う。 IRSと選択したIRSAPとの結合状態の構造生物学的解析および相互作用阻害化合物の最適化についても、IRSとIRSAPの結合領域を絞り込み、これらを用いて共結晶化を進める。これをX線解析し、IRSと各種IRSAP間の結合様式を原子レベルで明らかにする。それぞれのIRSAPとIRSの結合状態とこの相互作用を阻害する低分子化合物の構造の情報をもとに、IRSAPとIRSの相互作用を強力に阻害するように低分子化合物を最適化する。 IRSと選択されたIRSAPの相互作用を阻害した細胞・動物におけるインスリン様シグナル・インスリン様活性の解析についても、これまでの方針どおり、研究を進める。
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