研究課題
組織幹細胞を維持するためには、1)低増殖、2)低代謝、3)低酸化、の三条件が必要であり、その性質を維持するための共通機構が存在すると信じられてきた。われわれは造血幹細胞においてこの三条件を媒介する鍵分子p57、Fbw7、Fbxl5 を同定したが、この三分子は全身の組織幹細胞において必須ではないかと推定した。この仮説を証明するために、種々の幹細胞においてp57、Fbw7、Fbxl5 の発現を解析し、さらにその機能喪失変異体を作出して、この三分子が真の「幹細胞維持分子」であることを実証する。さらに、三分子の発現状態をモニターして未だ明らかではない全身の組織幹細胞を可視化する技術を開発し、その性質を明らかにする。現在までに当初の目標であったp57、Fbw7、Fbxl5 の組織幹細胞における発現解析、種々の組織幹細胞におけるp57、Fbw7、Fbxl5 遺伝子改変マウスの作製はほぼ終了した。特に神経特異的p57コンディショナルノックアウトマウスについては既に解析を終了し、Nature Neuroscience誌に論文を公表した(Furutachi, S., et al., Nature Neurosci. 18: 657-665 (2015))。またp57系統追跡マウスの作製は完了し、解析は現在進行中である。さらに、本研究で得られた知見を元に、がん幹細胞に対してもその性質の解明や治療法の開発等を進めており、既に優れた成果を公表している(Takeishi, S., et al., Cancer Cell 23: 347-361 (2013).)。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予想では、p57(低増殖)、Fbw7(低代謝)、Fbxl5(低酸化)の三因子の発現パターンは全く異なり、その重なり合う部分が真の幹細胞であることを想定していた。しかし、研究を遂行して各々の遺伝子の発現パターンが明らかになると、実はp57が最も幹細胞に特異的に発現しており、それを含む形でFbw7やFbxl5を発現している細胞群が存在していることが明らかとなった。つまりp57の発現細胞はFbw7/Fbxl5発現細胞の真部分集合に当たることが判明した。この結果を受けて、系統追跡マウスをp57、Fbw7、Fbxl5の三種類作製する科学的必要性が希薄となった。当初の予想に基づき、本研究計画では、p57、Fbw7、Fbxl5に共通の細胞を追跡するため、それぞれのプロモーター下にGFP遺伝子を挿入した変異体(系統追跡用ノックインマウス)を作製する予定だったが、この知見の取得によってその科学的必要性が低下し、p57の系統追跡用ノックインマウスだけでその目的を達成することができることが明らかとなった。そこで、本研究計画で当初提案していたFbw7とFbxl5の系統追跡用ノックインマウスの作製は中止することにし、p57の系統追跡用ノックインマウスで代用することに変更した。このマウスは既に作製に成功し、現在種々の組織で系統追跡を行っており、研究は順調に進行中である。
p57の遺伝子内に蛍光タンパク質遺伝子もしくはCreリコンビナーゼを同時に発現するようにデザインしたノックインマウスを作製する。具体的には、p57遺伝子の下流にタモキシフェン誘導性のCreカセット(CreERT2)を挿入したマウス (p57-CreERT2マウス) を作製する。このマウスとRosa26領域のマーカーマウスと交配させたマウスでは、タモキシフェン投与によりまずp57を発現する幹細胞でのみGFPが発現する(下図)。GFP標識細胞の中に、組織を構成する全ての細胞が含まれていた場合、この細胞は組織幹細胞の性質をもつという結論に至る。同様の解析をFbw7とFbxl5についても行い、これらが共通して発現する細胞を組織幹細胞の候補として、全ての組織で可視化し、系統追跡する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Stem Cells
巻: 33 ページ: 3327-3340
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Nature Neurosci.
巻: 18 ページ: 657-665
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Dev. Biol.
巻: 407 ページ: 331-343
10.1016/j.ydbio.2015.07.004
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/index.html