研究課題
本年度はp57、Fbw7、Fbxl5のコンディショナルノックアウトマウスにおける幹細胞機能の障害に関する解析を行った。具体的には前年度までに作製した、種々の組織におけるp57、Fbw7、Fbxl5のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、種々の幹細胞について、その機能障害について検討を行った。p57コンディショナルノックアウトマウスの腸管の解析では、通常の状態では特に形態的・機能的異常を認めなかったが、5-FUを投与して腸管細胞を傷害した場合には、組織修復が遅延し、幹細胞機能が傷害されていることが示唆された。腸管特異的Fbw7コンディショナルノックアウトマウスでは通常状態では特に大きな異常を認めなかったが、主に発がんやがん進展の関与に変化が認められた。さらに骨髄特異的Fbxl5コンディショナルノックアウトマウスでは幹細胞機能が傷害されて、骨髄移植時の再構築能が著しく低下した。また神経特異的Fbxl5コンディショナルノックアウトマウスでは脳皮質が増大し、幹細胞の増殖性も上昇していた。また幹細胞における発現特異性が特に高いp57のプロモーター解析を行うため、p57遺伝子に蛍光タンパク質を組み込んだノックインマウスを作製したところ、期待通り幹細胞特異的発現を骨髄や小腸、胃、腎臓等の臓器で確認した。現在、同様のシステムを用いてp57遺伝子にCreを組み込んだノックインマウスも作製済みであり、このマウスを使用して幹細胞の系譜をトレースする実験を施行中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の大きな柱は「全ての組織幹細胞は共通した原理で作動している」という仮説(「幹細胞通則」と呼称している)の実証である。具体的には、組織幹細胞はその発生・維持に対して1)低増殖、2)低代謝、3)低酸化、の三条件を有する必要があり、それを媒介する責任遺伝子p57、Fbw7、Fbxl5 の機能解析を主に骨髄幹細胞、腸管幹細胞、神経幹細胞で行うことにより、「幹細胞通説」を証明しようというものである。骨髄幹細胞や腸管幹細胞は研究代表者である中山らのグループが主体となって進めている一方、神経幹細胞は中山らのグループと共同研究者の後藤由季子・東大教授らのグループの共同研究を進めている。既に当初の目標であるp57、Fbw7、Fbxl5 の組織幹細胞における発現解析と種々の組織幹細胞におけるp57、Fbw7、Fbxl5 遺伝子改変マウスの作製はほぼ終了した。また系統追跡マウスについてもp57系統追跡マウスの作製は完了し、解析は現在進行中である。このように当初の研究計画は予定通り順調に遂行されている。但し、わずかな項目では研究の進展状況から科学的に重要性が低下したため、途中で計画を変更したものもある。逆に、本研究課題から得られた知見が別の研究領域に発展したケースもあった。以上を総合して、当初の研究計画はほぼ達成できており、さらに予想外の研究展開もあったことを鑑みると、本研究計画は概ね順調に推移していると考えられる。
今後の研究計画はほぼ当初の計画通りであり、残っている主な実験は「全身の幹細胞の可視化と系統追跡」のみである。一部の実験(Fbw7/Fbxl5プロモーター下における系統追跡マウス作製とその解析)は科学的必要性が希薄となったため施行を中止し、p57プロモーター下における系統追跡マウス作製とその解析に集中することとした。既にp57の遺伝子内に蛍光タンパク質遺伝子もしくはCreリコンビナーゼを同時に発現するようにデザインしたノックインマウス、つまりp57遺伝子の下流にタモキシフェン誘導性のCreカセット(CreERT2)を挿入したマウス (p57-CreERT2マウス) は作製済みである。このマウスとRosa26領域のマーカーマウスと交配させたマウスでは、タモキシフェン投与によりまずp57を発現する幹細胞でのみGFPが発現し、GFP標識細胞の中に、組織を構成する全ての細胞が含まれていた場合、この細胞は組織幹細胞の性質を持つ。この点も既に一部の幹細胞で実証済であり、現在種々の組織において同様の解析を行い、新たな幹細胞の同定とその機能解析を進めているところである。
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