p57遺伝子発現制御下にCreリコンビナーゼを発現させるマウスを樹立し、それをRosa26遺伝子領域に組み込んだLoxP-Stop-LoxP-Venusカセットを持つマウスと交配することによって、全身でp57発現細胞の子孫細胞を追跡(lineage-tracing)できるシステムの開発に成功した。これを用いて腸管のp57陽性細胞(+4ポジション細胞)のlineage-tracingを行ったところ、予想に反して通常状態ではほとんど子孫細胞を認めることはできなかった。このマウスにさまざまな傷害(X線照射や抗がん剤投与)を加えてlineage-tracingを検討したが、非常に低頻度でしか子孫細胞への貢献を認めなかった。しかしAPC変異マウスと交配したところ、p57陽性細胞からのlienage-tracingを確認した。またオルガノイドを作成してもp57陽性細胞の子孫細胞の割合は限定的であったが、ここに強いWnt経路の活性化を加えるとp57陽性細胞の子孫細胞が優勢となることが判明した。以上のことから、定常状態においては1)p57陽性細胞はほとんど腸管の組織構築には関与しない、2)腫瘍やWntの過剰な状態においてはp57陽性細胞は幹細胞として振る舞う、ということが明らかとなった。興味深いことに、全く同じ解析を胃上皮で行うと、p57陽性細胞は定常状態においても明らかなlineage-tracingを認めた。このことは腸管と胃では異なる機構で幹細胞性が維持されていることを物語る。また成体マウスにおける全身のp57陽性細胞の検索によって、特に腎臓においてp57陽性細胞を認めた。現在、これらが幹細胞性を有するのかどうかの最終検討を施行中である。
|