研究課題
カルシウムシグナル機構と病態との関連を以下の項目で追求した。1)NOによるCa2+放出機構(NICR機構)の病態生理 NICR機構に関与するリアノジン受容体(RyR1)のシステイン残基をアラニンで置換することによりNICRを欠失させたノックインマウス(C3636Aマウス)を用い、NICR機構の病態生理的意義を解析した。カイニン酸てんかんモデル動物の海馬CA3領域で神経細胞死が生じるが、これがNICR欠失C3636Aマウスでは著明に軽減された。またNICR抑制薬のダントロレンにも神経細胞死抑制作用があることを明らかにした。以上より、RyR1を介するNICR機構がてんかんに伴う神経細胞死の治療標的となることを示して論文発表を行なった。2)グリア細胞Ca2+シグナル機構の病態生理 アストロサイト特異的にタンパク質型Ca2+インジケーター(YC-Nano50)を発現するマウスを用い生体内イメージングを本年度も継続して行った。本年度は生理的なCa2+応答を観測しながら、測定手技の向上を行ない、生体内イメージングを安定して長期間実施することができるようにした。3)細胞内小器官Ca2+動態の病態生理 細胞内小器官用Ca2+インジケーターCEPIAをアストロサイト小胞体に特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製した。特に小脳バーグマングリアにおいて強い発現がみられ、スライス標本を用いて小胞体からのCa2+放出を高感度に検出できた。光ファイバーを用いた自由行動下生体内測定のため、測定機器と実験手法の準備を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
第4年度の計画については、予定通り進んだ。NICR機構の病態生理解析については、予定した以上に進み、論文発表を完了した。また、細胞種特異的にCa2+インジケーターを発現させたりCa2+シグナルを抑制できるマウスなど、有用なモデル動物が次々に使用可能となっており、今後のさらなる展開が期待できる状況にある。また、安定して生体内イメージングが可能な実験手法が確立しているなど、十分な達成度に達している。
1)NOによるCa2+放出機構の病態生理:研究は順調に進行し、リアノジン受容体の機能抑制が脳障害後の治療標的となる可能性を示すことができ、論文発表を完了した。2)グリア細胞Ca2+シグナル機構の病態生理:昨年度までの研究で、生体内でアストロサイトのCa2+動態を観測する方法を確立し、大脳皮質に虚血あるいはメス刺入による傷害を加えた後、アストロサイトのCa2+シグナルが一過性あるいは周期的に上昇することを発見している。本年度は、アストロサイトの細胞内Ca2+動態および形態変化を生体内で長期間可視化観測し、IP3分解酵素を発現させることにより細胞内Ca2+シグナルを抑制した時の応答と比較する。さらに、傷害応答により発現変動するタンパク質のうちCa2+シグナル依存的に変動するものを抽出し、アストロサイトのCa2+シグナルと病態との関連を解析する。3)細胞内小器官Ca2+動態の病態生理: G-CEPIA1erを細胞種特異的に発現するトランスジェニックマウスの開発を進め、脳傷害に関連する小胞体Ca2+動態を神経およびグリア細胞において解析する。4)生体内Ca2+可視化法の応用拡大:計画の一部は予想を越えたスピードで進展したので、生体内Ca2+可視化法を脳以外の臓器に拡大する試みを行いたい。特に、膵β細胞の病態生理機構に着目し、G-CEPIA1erあるいはYC-Nano50を膵β細胞特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成し解析する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 6件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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