研究課題
本年度は脳梗塞モデルを用いて新たな炎症制御システムの探索を行った。近年、脳梗塞後の過剰な炎症が神経細胞死や梗塞領域の拡大に寄与することが明らかとなってきた。脳虚血再還流によりマイクログリアやアストロサイトおよび浸潤マクロファージは様々なサイトカインやケモカインを産生する。その中でもインターロイキン1β(IL-1β)の増加は血液脳関門の破綻や他の炎症細胞の浸潤を誘導し、神経学的予後を悪化させることが報告されている。IL-1βの活性化にはインフラマソームによるプロセシングが必要であり、脳虚血障害時ではNLRP3インフラマソームが関与することが報告されている。NLRP3インフラマソームは痛風、動脈硬化、ウイルス・細菌感染等においても様々な刺激で活性化されることが知られているが、その分子機構については不明の点が多かった。我々は阻害剤スクリーニングの過程で非受容型チロシンキナーゼであるBTKがNLRP3インフラマソームの活性化に重要な役割を果たすことを見出した。BTK阻害剤はNALP3やASCの重合を阻害し、その結果caspase-1の活性化やIL-1βのプロセシング、放出が抑制されることを明らかにした。さらにマウスを用いて脳虚血障害へのBTK阻害剤ibrutinibの効果を検討したところ、ibrutinib投与により脳梗塞領域の減少・神経症状の改善が認められた。また、実際に脳組織中のIL-1β放出はibrutinib投与によって抑制された。脳虚血障害時でも、BTK阻害剤がインフラマソーム活性化、IL-1β放出を抑制することにより脳梗塞の予後を改善すると考えられた。iburutinibは、慢性リンパ性白血病やマントル細胞リンパ腫の治療薬として米国で承認された薬で、関節リウマチや自己免疫疾患の治療薬としても期待されており、脳虚血後の神経障害の改善にも有効である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
新規のインフラマゾーム活性化機構を発見し、さらにその阻害剤が脳梗塞モデルにおける炎症を抑制することを明らかにした。この発見は脳梗塞の新しい治療法の開発につながるものと期待されるため。
脳梗塞後の炎症がもたらす神経損傷については多くの知見が得られつつある。すでに我々はIL-23-IL-17経路の重要性や、今回インフラマゾーム-IL-1βの重要性を明らかにした。さらに上流の炎症性サイトカイン産生の誘導因子として脳内ペルオキシレドキシンを同定し、これがToll-like receptor 2/4を活性化して脳内炎症を惹起することを発見した。一方組織損傷によって惹起された炎症は組織修復にも寄与することが知られており、脳梗塞後期において、マクロファージはIGF-1などの神経再生因子を盛んに分泌する修復性マクロファージに相転換することが見いだされている。しかしこのような梗塞後期のマクロファージの性質は何が決めるのか?組織修復にかかわるマクロファージを活性化する因子は何か?など不明な点が多い。そこで今後は神経細胞から分泌される神経伝達物質やそれらを介した機構がマクロファージによる組織修復にどのように関与するのか検証し、重要な神経細胞種、神経伝達物質まで同定する。これによって炎症の終息と組織修復への寄与の分子論的な理解を推進する。
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