研究課題/領域番号 |
25221305
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉村 昭彦 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90182815)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | サイトカイン / シグナル伝達 / TGFβ / 制御性T細胞 / 組織傷害 / T細胞 / マクロファージ / 生体恒常性 |
研究実績の概要 |
免疫システムは正負のシグナルがバランスを保って進行することで恒常性が維持される。一方でこのバランスにはある程度の弾性があり、免疫シグナルの強度が免疫応答の性質を決定する。本研究課題ではシグナルネットワーク制御の観点から免疫シグナル間相互作用を解析することで複雑な免疫応答制御をより単純化して理解し、他の疾患制御系にも通じる新たなパラダイムの確立をめざす。本研究課題では(1)NR4aによるTregの維持機構の解明を行なった。NR4aはTregにおいてFoxp3とEosの発現を正に制御し、一方でTh2,Tfhエフェクター機能に重要なIL-4やIL-21などの炎症促進分子の発現を抑制する機能があることがわかった。(2)クロストリジウム属菌による樹状細胞からのTGFβシグナルによるiTreg誘導制御機構について解析を行った。本研究によってクロストリジウムの菌体成分ペプチドグリカンがTLR2-ERK-AP1を活性化しTGFβプロモーターの転写開始を進めること、さらにTGFβそのものの刺激(オートインダクション)も必要でSmad3がヒストンアセチル化を促進するがSmad2は逆に抑制的に作用することを明らかにした。(3)新規インフラマゾーム活性化因子BTKの発見と脳梗塞後の炎症ににおける役割の解明を行なった。BTKは酵素活性依存的にNLRP-ASC複合体の重合を促進しcaspase1の活性化を誘導することがわかった。さらにこの発見を脳梗塞おける組織傷害モデルに適応した。BTK阻害剤投与によってIL-1βの産生が抑制され脳梗塞体積は減少し、神経症状の改善も見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 当初計画していたNR4aによるTreg制御に関してはNr4aの新たな標的遺伝子の同定するとともに、NR4a欠失によるTregからのTh2とTfhの分化の分子レベルでのメカニズムを明らかに出来た。さらにNR4a結合分子についても解析を進めており、NR4aによる免疫と転写の制御の全体像を描くことが出来ると思われる。 (2) これまで全く知られていなかった樹状細胞におけるTGFβの産生制御機構が明らかになった。これを利用して様々な免疫疾患の治療への応用が可能となる。 (3) NR4aの研究で中心的な役割を果たした研究協力者の関谷が2013年12月に日本免疫学会奨励賞を授賞。またインフィラマゾームとBTK阻害剤の研究で研究協力者で大学院生の伊藤美菜子が2015年度育志賞を、T細胞分化の研究で同じく研究協力者で大学院生の近藤泰介が第43回日本免疫学会優秀演題賞を授賞するなど若手研究者の育成にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)NR4aがFoxp3以外の転写を正負に制御していることがわかり、考えられていた以上にTregにとって機能分子として重要であることが判明した。今後はそれぞれの標的遺伝子について、どのようなメカニズムで促進したり抑制したりしているのかを明らかにする必要がある。その意味でNR4aに会合する分子のプロテオーム解析が重要である。申請書にも記載した通りすでに会合分子の解析は行なっておりすでにco-repressorとして知られるNCoRなどの会合分子を見出している。(2)我々はこれまでの予備的検討から脳梗塞14日後の脳内ではT細胞の浸潤が再び増加しその40%程度がFoxp3陽性のTregであることがわかった。TregのRag欠損マウスへの移入実験によりTregはアストロサイトの活性化を促し、梗塞部位の瘢痕化を促進していることがわかった。すなわち梗塞部位を活性化されたアストロサイトが取り囲み組織の修復ないし再生を促していることが示唆される。今後本現象を中心にTregと組織修復に関する研究を促進する。(3)IL-2やIFNγなど個々の遺伝子毎にChIPアッセイやDNAメチル化解析などのエピジェネテックな解析を強化することで炎症シグナルと抗炎症シグナルのバランス制御機構の本体の解明を進める。
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