研究課題
本研究では、塩分ストレスが血圧・体液恒常性維持機構の破綻のみならず、全身の臓器障害を引き起こす分子病態を解明し、それに基づいた治療法の開発を行う事を目的とする。その際、研究の糸口となるのが、遺伝性塩分感受性高血圧症の原因遺伝子であるWNKキナーゼである。我々は、機能未知であったWNKキナーゼの基質同定を含めた下流のシグナル伝達系を世界ではじめて解明し、最近では上流の制御因子を数多く同定してきた。その結果、この系の制御機構の破綻が単なる高血圧症のみならず、各臓器において塩分負荷による病態形成に関わる事が明らかとなってきた。本研究では、多くの研究手法を駆使してこれらの病態を解明し、病態に基づいたトランスレーショナルリサーチ(創薬やバイオマーカー開発)へと発展させる。具体的には、以下の事項を明らかにしつつ上記目的を達成する。1) 遺伝子改変マウスの解析によりWNKシグナル系が担う各臓器での役割を解明する。2) この情報をもとにWNKキナーゼの新規の上流の制御因子と下流の標的を解明する。3) 明らかになった各臓器での役割が、腎臓でのWNKシグナル系による塩分出納制御のように、塩分負荷によって制御を受けているかを検討する。4) WNKキナーゼが恒常的に活性化された遺伝子改変マウスや病態モデル動物で、塩分負荷が実際に引き起こす病態を各臓器において細胞レベルで解析する。5) 腎機能障害を上記モデルに負荷し、上記病態に与える変容を解析する。6) WNKシグナル伝達系(等)の阻害薬の探索をおこなう。
2: おおむね順調に進展している
1) WNK4が脂肪細胞において、その分化に関わる事を発見し、塩分のみならず脂肪の蓄積にもWNKシグナル系が関与することを見いだした。このことは、この系の生活習慣病への関与をいっそう明らかにするもので、創薬への強いモチベーションとなっている。また、血管平滑筋におけるトーヌス調節のこの系の関与を証明した。2) WNKシグナルの新規調節機構としてWNKのE3リガーゼを同定し、実際にその制御機構の破綻が遺伝性の高血圧症であるPHAIIを引き起こしていること、またこのような遺伝病のみならず、液性因子によるWNKキナーゼシグナル系の制御が、このWNKの分解制御を介していることも解明できた。3)血管平滑筋におけるトーヌス調節制御機構において、WNK3-SPAK-NKCC1シグナル系の関与を発見し、さらにそのシグナル伝達が食塩摂取に応じて調節されていること、そのメカニズムにWNKの分解系が関与している事、さらにはプロテアソーム以外にオートファジー系もWNKの分解に関わる事を発見し、今後の創薬ターゲットとなると考えた。4) 病態モデル動物において、次世代シークエンサーを用いたRNA-seq、CHIP-seq、メタボローム解析等の網羅的解析をほぼ終了し、興味深い分子が同定されてきており、今後の塩分負荷による病態形成における新たな機序を見いだせる状況にある。5) ケミカルライブラリースクリーニング系を確立でき、実際に2万程度の化合物スクリーニングを終了し、初期シード化合物を得られた。今後は、最適化を行う一方、研究のツールとしても使用できる。以上の状況から、順調に進行していると判断した。
WNKシグナル系が担う各臓器での役割を解明については、28年度中に脂肪細胞における役割について論文化し、脂肪食下における肥満の抑制のみならず、WNKノックアウトマウスと各1) 病態モデルとの交配によって、病態改善への効果を検証する。脂肪以外に現在注目している臓器が骨格筋である。CCKDを含む慢性疾患におけるサルコペニアに、このシグナル系が関与している可能性があり、まずWNKキナーゼシグナル系ノックアウトマウスにおける運動負荷時の筋肉における動態を現在解析中である。2) KLHL蛋白による分解のメカニズムをさらに追求する。特に、もう一つのPHAII原因遺伝子として見つかったCullin3の変異がもたらす病態を、コンディショナルノックアウトマウスを用いて検討する。3) 塩分負荷が各細胞・臓器にどのような影響を与えているかを探る試みは、次世代シークエンサーやメタボロームを使用した網羅的解析を手がかりとして行う。注目すべき候補分子の選定をすすめ、すでに再現性の得られている分子を手がかりに、今まで見過ごされていた塩分負荷が形成する病態について明らかにする。また、慢性腎臓病(CKD)モデルでの塩分負荷の与える影響の解析、同時に蛋白負荷が与える影響についても解析を行う。4) WNKシグナル伝達系(等)の阻害薬の探索は、スクリーニング系を確立できたことは大きく、今後更なるライブラリースクリニングと最適化をすすめる一方、既に同定されたシード化合物とWNK・SPAKキナーゼとの結合様式を、構造解析にて明らかにて、構造情報をもとに、薬剤のデザインを行う。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Biol Open
巻: 4 ページ: 1509-1517
10.1242/bio.013276.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 456 ページ: 670-675
10.1016/j.bbrc.2014.12.016
J Am Soc Nephrol.
巻: 26 ページ: 1525-1536
10.1681/ASN.2014060560
巻: 26 ページ: 2129-2138
10.1681/ASN.2014070639.
Biochem J.
巻: 472 ページ: 33-41
10.1042/BJ20150500.
巻: 467 ページ: 229-234
10.1016/j.bbrc.2015.09.184
Hypertension
巻: 66 ページ: 1199-1206
10.1161/HYPERTENSIONAHA.115.05872
http://www.tmd.ac.jp/grad/kid/index.html