研究課題
本研究では、塩分ストレスが血圧・体液恒常性維持機構の破綻のみならず、全身の臓器障害を引き起こす分子病態を解明し、それに基づいた治療法の開発を行う事を目的とする。その際、研究の糸口となるのが、遺伝性塩分感受性高血圧症の原因遺伝子であるWNKキナーゼである。WNK系の制御機構の破綻が単なる高血圧症のみならず、各臓器において塩分負荷による病態形成に関わる事が明らかとなってきた。本研究では、多くの研究手法を駆使してこれらの病態を解明し、病態に基づいたトランスレーショナルリサーチ(創薬やバイオマーカー開発)へと発展させる。具体的には、以下の事項を2016年度は明らかにして、上記目的の達成に向かっている。1) 遺伝子改変マウスの解析によりWNKシグナル系が担う各臓器での役割を解明し、この情報をもとにWNKキナーゼの新規の上流の制御因子と下流の標的を解明する。この点に関しては、WNK4が腎臓での塩分出納調節医関わる以外に、脂肪細胞に強く発現し、その分化に関わることを発見した。またWNK4のノックアウトマウスが高脂肪食に耐性の形質を示す事を見いだし、WNK4が塩分と脂肪というメタボリックシンドロームのkeyとなる物質の代謝に重要な moleculeであることを示せた。またこの脂肪での系は、OSR1/SPAKや輸送体のリン酸化を介しない事から、新たなWNKの基質がある事を示し、今後その同定に向かう。2) WNKキナーゼが恒常的に活性化された遺伝子改変マウスや病態モデル動物で、塩分負荷が実際に引き起こす病態を各臓器において細胞レベルで解析し、塩分負荷がケモカイン誘導を抑制する事を示し、塩分負荷と免疫系の新たな接点を明らかにした。その他、WNKのE3ユビキチンリガーゼであるKLHL2,KLHL3のノックアウトマウスの解析を行い、全身でのWNKキナーゼ制御のこれらの分子の役割を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的は、以下の6つである。1) 遺伝子改変マウスの解析によりWNKシグナル系が担う各臓器での役割を解明する。2) この情報をもとにWNKキナーゼの新規の上流の制御因子と下流の標的を解明する。3) 明らかになった各臓器での役割が、腎臓でのWNKシグナル系による塩分出納制御のように、塩分負荷によって制御を受けているかを検討する。4) WNKキナーゼが恒常的に活性化された遺伝子改変マウスや病態モデル動物で、塩分負荷が実際に引き起こす病態を各臓器において細胞レベルで解析する。5) 腎機能障害を上記モデルに負荷し、上記病態に与える変容を解析する。6) WNKシグナル伝達系(等)の阻害薬の探索をおこなう。 このうち今年度は上記の様に1~6までに各々の進展があった。
最終年度に辺り、上記の6つの目標を達成すべく研究を進める。1,2,3)の目標では、WNKキナーゼの脂肪細胞での役割を、さらにその機序を詳細に突き詰めることで達成したい。すでに細胞周期制御とWNKキナーゼの関わりにその端緒を得ており、脂肪細胞のみならず、腫瘍におけるWNKキナーゼの役割についても新たな知見を得る可能性がある。4)によって明らかにされたWNKとインターフェロン誘導性のケモカイン発現との関連以外にも、マクロファージにおけるWNK1の役割についてデータを得ており、その詳細を明らかにする。5)については、5/6腎摘モデルではWNKシグナルの活性化を確認出来た。また、CKDモデルにおけるメタボローム解析により、エネルギー代謝の障害とAMPKの活性化障害を認め、高蛋白食がさらに増悪因子となることも判明した。この領域に於けるWNKキナーゼの役割を明らかにし、CKDに対する治療介入のポイントを明らかにする予定である。6)については、シードの最適化を、特にvivoでの有効性と毒性の軽減を目指して引き続きトライすると共に、脂肪細胞でのWNK4の効果はキナーゼ非依存性であり、OSR1/SPAKへの出力に依存しないシグナルである事から、WNK4のどの部分が脂肪細胞での役割に重要か?相互作用する蛋白は何か?を見極めて、その情報に基づいた次の創薬スクリーニング法を考案する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
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