研究課題
本研究において、マウス脳脊髄炎病態下で、Th17細胞がRGMを介して神経細胞および軸索の変性を直接誘導することを明らかにした。本知見はhelper T細胞による神経・軸索変性のメカニズムを初めて明らかにしたものである。さらに免疫系の関与として、ミクログリアの機能に関する研究を進めた。発達期の皮質脊髄路ニューロンの生存と誘導を脳の免疫系細胞であるミクログリアが支えていることを明らかにした。この研究を土台として、さらにミクログリアが軸索の経路に集積するメカニズムの解析を進め、候補分子を絞り込むことに成功した。本研究では、脈管系が中枢神経回路障害と機能回復過程をどのように制御するかについても検証している。中枢神経を傷害する様々な疾患によって炎症が惹起され、この炎症に伴い、新生血管が生成される。この新生血管が、皮質脊髄路の軸索枝形成の速度を速め、運動機能の回復を促進していることを、局所脊髄炎モデルを用いて突き止めていた。本研究ではさらに、新生血管から分泌される様々な因子が再髄鞘化を促進する効果をもつこと、pericyte lossを抑制することを明らかにした。以上の発見によって、神経回路の修復過程には、神経系以外の生体システムが重要な役割を演じているという新たなコンセプトを確立するとともに、その全体像の解明を順調に進めることができている。なかでも全身の多彩な臓器が神経回路の修復を制御するというエビデンスを得ることができたこと、また進行型多発性硬化症の分子標的を見いだすことができたことが特筆すべき成果である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は免疫系と脈管系の関与を明らかにすることを目標としていたが、本研究期間において、さらに広範囲の生体システムが神経回路の修復に関わることを発見した。また本研究成果を基盤として、治療法のない難治性疾患に対する創薬研究へと繋がっていった。さらに血管系の関与について、複数の因子を同定し、これらの因子による神経回路修復機構を明らかにすることができた点は、当初の目標に向けて順調に研究が進んだものと自己評価する。これらの知見によって、神経回路の修復過程には、神経系以外の生体システムが重要な役割を演じているという新たなコンセプトを確立した。その規模は当初の予想よりも大きく、さらにダイナミックなものであった。本研究期間のうちにその全貌を明らかにしたいと考える。また免疫系で得られた成果の一部は、治療法がない進行型多発性硬化症に対する新たな治療法の開発に繋がった。これらは当初の目標を超える研究の進展であり、予定以上の成果が見込まれると考える。
28年度以降においては、研究項目「病態形成と回復期における生体の反応の機序の解明」を行うことを当初の予定としている。すなわち、生体システムがどのように各細胞の活性化の時空間的ダイナミクスを生み出すのかという課題に取り組むこととしている。これには特定の免疫系細胞(特にT細胞)およびサイトカインが重要な役割を演じていると予測する。各細胞群のシーケンシャルな活性化を統御するメカニズムを明らかにすることも目標としている。27年度までに得られた研究成果を統合し、新たな生体システム制御の概念を構築することが到達目標である。当初の予定通りに、基本的な方針の変更はなく、本研究項目に着手し進めて行く予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 15件) 備考 (1件)
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