研究課題
中枢神経障害の病態形成と機能回復の過程には、中枢神経系以外の生体システムが重要な役割を担っていることに着目して本研究を進めた。例えば炎症に伴って生じる新生血管がprostacyclineを分泌することで、軸索分枝を伸展させ、皮質脊髄路の修復を促進することを発見した。また免疫反応を担当するミクログリアが、発達段階において皮質脊髄ニューロンの生存を維持し、軸索の誘導を助けることを発見し、その分子メカニズムを明らかにした。本研究において、精神発達障害や末梢神経疾患においても、神経回路の修復という観点からのアプローチが有効であることを明らかにした。例えば、染色体微小重複による神経発達障害において、神経細胞を取り巻く細胞におけるprotocadherin-19の発現変化によって、神経回路の形成異常がおこることを見出した(Mol. Psychiatry, 2017)。また、cohesinの機能不全によって免疫系細胞におけるinterferonの発現が変化し、ADHD症状が出現することを示した(J. Exp. Med., 2017)。さらに神経障害性疼痛において、netrin-4により脊髄内介在ニューロンの回路異常が引き起こされ、疼痛過敏症状を発現させることを示した(J. Exp. Med., 2016)。これらの成果により、「生体システムによる神経回路の障害と修復の制御」の研究は、当初の予想を超えて、多くの臓器が幅広い神経疾患の病態形成に関与していることを明らかにした。当該研究によって、神経回路の修復過程には、神経系以外の生体システムが重要な役割を演じているという新たなコンセプトを確立するとともに、その全体像の解明を順調に進めることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の当初計画として、局所中枢神経障害に限定し、免疫系と脈管系にフォーカスして生体システムと神経の連関の解明を目指した。具体的には、免疫系および脈管系が局所中枢神経回路障害と機能回復過程をどのように制御しているかを分子レベルで解明した。当該研究によって、神経回路の修復過程には、神経系以外の生体システムが重要な役割を演じているという新たなコンセプトを確立するとともに、その全体像の解明を順調に進めることができた。なかでも全身の多彩な臓器が神経回路の修復を制御するというエビデンスを得ることができたこと、また進行型多発性硬化症の分子標的を見いだすことができたことが特筆すべき成果である。
29年度においては、研究項目「病態形成と回復期における生体の反応の機序の解明」を行うことを当初の予定としている。すなわち、生体システムがどのように各細胞の活性化の時空間的ダイナミクスを生み出すのかという課題に取り組むこととしている。これには特定の免疫系細胞(特にT細胞)およびサイトカインが重要な役割を演じていると予測する。各細胞群のシーケンシャルな活性化を統御するメカニズムを明らかにすることも目標としている。28年度までに得られた研究成果を統合し、新たな生体システム制御の概念を構築することが到達目標である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 9件) 備考 (1件)
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http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/researchk7.html