研究課題
遂行機能制御に関わる神経メカニズムを理解するためには、前頭連合野が他の連合野に向けて発するtop-down信号による機能制御の仕組みの理解が不可欠である。長期記憶に貯蔵されている情報の想起にtop-down信号が重要な機能を果たしていることが知られていることから、このメカニズムを手掛かりに、前頭連合野から発せられるtop-down信号の実態を検討してきた。12対の視覚刺激を用いた対連合学習課題をサルに訓練し、この課題を行っているサルの前頭連合野外側部と前頭葉眼窩部から単一ニューロン活動を記録した。Top-down信号による機能制御は前頭連合野外側部が関与し、眼窩部は無関係であることから、ニューロン活動を2つの領域で比較し、外側部に特異的な課題関連活動や其の特徴を検討することにより、top-down信号に該当する神経活動を抽出できると考えられる。其の結果、(1)どちらの領域のニューロンも視覚刺激に対して選択的応答を示すが、その比率は外側部で高いこと、(2)同一視覚刺激を見本刺激、参照刺激、妨害刺激として呈示した時の応答の違いは外側部のニューロンでより顕著であること、(3)対刺激に対する選択的応答は外側部のニューロンで顕著であること、(4)外側部には、遅延期に見本刺激特異的に持続的な興奮性活動を示すニューロンが、眼窩部に比べて有意に高頻度で観察されること、が明らかになった。このことから、前頭連合野外側部のニューロンで、特定の対刺激に対して選択的に応答し、遅延期に渡って刺激特異的な活動を示すものがtop-down制御に関わっていることが示唆された。中でも遅延期間中に刺激特異的に持続的活動をするニューロンがtop-down制御に重要な関与をしていることが示唆された。
3: やや遅れている
平成27年度末に京都大学を定年退職となるが、研究を平成29年度末まで継続して実施できるように配慮してもらったが、後任の教員が新規の機器や設備の導入と、これらに伴う実験室・動物飼育室の大規模な改変を実施ししたため、研究の遂行が不可能な状態が長期にわたってしまったため、研究に遅延が生じてしまった。。
昨年度まで、前頭連合野から下側頭葉に発せられるトップ・ダウン制御信号を必要とする対連合学習課題を使用し、この課題を学習したサルの前頭連合野主溝の深部と前頭葉眼窩部からのニューロン活動の記録と解析に重点を置き、既存の前頭連合野外側部の活動の特徴との異同を明らかにしてきた。しかし遂行機能の理解には、前頭連合野に入力するボトム・アップ信号から、前頭連合野から出力するトップ・ダウン信号を生成する仕組みの理解が不可欠であり、これには複数の異なる機能を持つニューロンの関与が同時に必要になる。そこで、今まで重点的に使用してきた眼球運動を利用した空間性ワーキングメモリ課題(ODR課題)を用い、前頭連合野の主溝の深部や前頭葉眼窩部を中心に、この課題を行なっているサルの前頭連合野から、同軸多点電極による複数のニューロン活動及び局所電場電位の同時記録を実施し、得られる神経細胞集団間の機能的構造によりトップ・ダウン制御信号生成に関わる神経ネットワークを解明する。米国FHC社から購入した12の電極点をもつ同軸多連電極を使用し、前頭連合野外側部より複数の単一ニューロン活動の同時記録と、これらの電極から記録される局所電場電位の同時記録を実施する。連携研究者である篠本滋博士とその研究グループの協力を得て、局所電場電位を使用した前頭連合野内局所神経回路の同定やその動作の解析、ならびに、前頭連合野の異なる領域間の情報処理様態を理解するための神経回路モデルの作成と、それによる遂行機能実現に向けたシミュレーション実験を行い、遂行機能発現におけるtop-down信号の実態や機能を検討する。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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