研究概要 |
我々は1秒に3回も目を動かしているのに周囲の世界は安定している。脳はいかにして視覚世界を安定化しているのか。我々はこの問題を、1)網膜像の流れが知覚されないのはなぜか、と2)眼球運動の前後で異なる網膜像をどのようにして空間的に統合するのか、の2つの問題に分けて、解明を目指している。平成25年度においてはそれぞれについて以下の研究を行った。 1) 網膜像の流れが知覚されないのはなぜか 2頭のニホンザルの、MT野、MST野とその周辺領域から記録を行い、我々の作業仮説(中和説)を支持する応答変化(サッケード直前に選好方向と180度反対の反選好方向の刺激に対する応答の相関の増加)を示す細胞群が存在することを示した。 2) 眼球運動の前後で異なる網膜像をどのようにして空間的に統合するのか 我々は、背景から抽出された特徴的な構造を手がかりとして統合が行われているという「背景座標系仮説」の検証を目指している。本年度は、ヒトを対象とした行動学的研究を行い、手を伸ばす運動における目標の位置が、背景を基準として表現されることを示す結果を得た。この結果を論文化して出版した(Uchimura and Kitazawa, 2013, Journal of Neuroscience)。さらに、非侵襲脳活動計測を行い、「背景座標系」が存在する可能性のある脳領域を特定することに成功した。
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