研究課題/領域番号 |
25240030
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩田 洋夫 筑波大学, システム情報系, 教授 (60184884)
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研究分担者 |
矢野 博明 筑波大学, システム情報系, 准教授 (80312825)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ |
研究概要 |
位置を変えずに歩行運動を可能にする装置のことを歩行移動インタフェースと称す。歩行は人間にとって最も基本的な移動手段で、災害時における避難も徒歩が原則である。人間が自分の周囲の空間を認識する場合に、歩行運動に伴う外界の見えの変化は極めて重要な手掛かりであり、人間の空間認知に関する重要な研究テーマである。しかし、従来の避難シミュレーション研究では、この手掛かりがほとんど実現されていないのが実状である。本研究はこの課題に対して、歩行感覚と視覚を融合した避難シミュレータを開発し、避難行動における人間の特性を研究するための基盤技術を構築することを目的とする。 トレッドミルは歩行による前進移動を打ち消す方式としては、最もよく知られており、アスレチックジム等でランニングマシンとして使われている。しかし、通常のトレッドミルは歩く方向を変えると、ベルトから落ちてしまう。本研究では、前後だけでなく左右方向にも任意に歩けるようにしたTorus Treadmillを導入している。これは多数のベルトコンベアを直交方向に数珠つなぎにすることによって、無限に続く2次元平面を提供する。しかし、従来の試作機においては、ベルト群が高速で公転するときに、振動を発生することが発見された。Torus Treadmillを避難シミュレータに用いるためには、この問題を解決する必要がある。振動発生の原因としては、各ベルトが歩行面に上がってくる時に、支持レールに自重が載り、結果として衝撃力が発生していることが特定された。この、衝撃力が発生しないように軟着陸させる公転機構を新たに開発した。その結果従来では振動のために0.6m/s以下の歩行に限定していたが、1.4m/s程度の小走りにも対応できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の4つの研究項目によって構成される。 [研究項目1] 歩行移動インタフェース基盤技術の高度化: ① Torus Treadmillの発展型公転機構の開発、[研究項目2] 全周球面映像表示装置の開発: ②全周球面スクリーンと背面投射装置の開発 ③バーチャル都市空間の生成、[研究項目3] 歩行移動インタフェースと全周球面映像表示装置の統合: ④展示を通じた有効性と安全性の検証 ⑤公開実験用統合プラットフォーム開発、[研究項目4] 避難シミュレータの構築と、避難経路選択実験: ⑥バーチャルな災害状況の表示 ⑦避難経路選択に関する被験者実験。 平成25年度は、これらのうちの[研究項目1]の実施を計画し、発展型公転機構の試作を行った。試作機の性能試験を行った結果、従来は0.6m/s以下の歩行に限定されていたのに対し、1.4m/s程度の速度が実現できた。これは小走りに相当する歩行に対応できるものであり、避難シミュレータとしての可能性を大きく広げるものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、4つの研究項目の中で、[研究項目2]に進む。具体的には以下の2項目を実施する。 ②全周球面スクリーンと背面投射装置の開発: 歩行運動に伴う外界の見えの変化は、人間が自分の周囲の空間を認識する場合に極めて重要な手掛かりになる。バーチャル空間の映像を表示する装置としては、ゴーグル型の頭部搭載型ディスプレイがよく知られているが、人間の視野は水平方向に200度程度あるため、この方式ではこれを全て覆う光学系の実現は困難である。これに替わる方式として、大型のスクリーンで観察者を覆う没入ディスプレイの技術が研究されてきた。スクリーン面は観察者の目から等距離にあるのが望ましいので、その形状は球になるべきである。球形のスクリーンとしてはプラネタリウムが知られているが、これは中央に投影装置があり、専用の建屋を必要する大がかりな装置になる。本研究では、スクリーンの背面から映像を投影することにより、通常の室内で全周球面ディスプレイを構成する研究を行い、Torus Treadmill上の歩行者に適用可能な、全周球面スクリーンと背面投射装置を開発する。背面から投影する場合は、多数のプロジェクタを用いて、球面を分割した領域に投影する必要があるため、その分割方法の最適化を行う。 ③バーチャル都市空間の生成: 都市空間の映像を生成する手法としては、CGを用いるものと、実写映像を用いるものがある。前者は任意の視点から見た風景が自由に生成できるが、リアルな風景を作成するのには、多大な労力と計算時間を要する。一方、後者は写真品質の映像が得られるが、視点の位置が固定されるという制約がある。本研究では、両者の長所を取り入れて、実写映像に処理を加え、全方向の歩行移動に対して都市空間の映像を生成する。
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