研究課題/領域番号 |
25241012
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
續 輝久 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40155429)
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研究分担者 |
中津 可道 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00207820)
大野 みずき 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70380524)
日高 真純 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (80238310)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発がん / 酸化ストレス / 突然変異 / 細胞死 / DNA損傷 |
研究概要 |
研究の目的 細胞ががん化する過程では、様々ながん細胞に特有な細胞機能の喪失・獲得が起こる。これら細胞機能の変化に関与する普遍的な遺伝子(群)の変異の同定は、発がん予防やがんの新しい治療法の研究に重要な基盤を与える。本研究では酸化ストレスを負荷することでマウス同一個体の小腸に比較的短期間で多数の上皮性がんを誘発させる実験系を用い、誘発された多数のがん組織のゲノムワイドな突然変異解析を行い、独立のがん組織で共通に認められる遺伝子変異を探索することで、酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)や変異を明らかにする。また、酸化ストレスによる発がんの抑制に大きく寄与していると考えられる細胞死を誘導する分子機構に関わる因子を網羅的に同定するために、遺伝学的手法(挿入型突然変異体の単離)を用いてそれらの因子の分離・同定を行い、酸化ストレスに応答して能動的に誘導される細胞死に関わる系の解明を行う。 (1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析 酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)や変異を明らかにするためのComparative Genomic Hybridization (CGH) 解析と次世代シークエンサーを用いたゲノム解析を行うために、Mutyh遺伝子欠損マウスを用いて酸化ストレス誘発小腸発がん実験を行い多数の腫瘍サンプルを得た。一部のサンプルを用いてCGH解析を行った結果、大きな転座や欠失・挿入等の染色体不安定性は観察されなかった。 (2) 酸化ストレス抵抗性変異体の分離 酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定するために、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を行っている。また、以前に分離したメチル化剤抵抗性を示す変異体細胞株の酸化ストレス抵抗性について詳細に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析 Mutyh遺伝子欠損マウスで酸化ストレスにより誘発される小腸腫瘍における遺伝子変異解析を行うための試料を得るために、野生型およびMutyh遺伝子欠損マウスに0.15%KBrO3溶液を16週間投与(自由飲水)し、酸化ストレス誘発小腸発がん実験を行い、多数の上皮性腫瘍サンプルを得ることができた。Mutyh遺伝子欠損マウスから得られたサンプルの一部を用いてComparative Genomic Hybridization (CGH) 解析を行い染色体不安定性について解析したところ、大きな領域での転座や欠失・挿入等の染色体不安定性は認められなかった。微小領域での欠失や増幅等の詳細については現在解析中である。 Mutyh遺伝子欠損マウスに加えて、ミスマッチ修復系のMsh2遺伝子欠損マウスを用いた酸化ストレス誘発小腸発がん実験が進行中である。 (2) 酸化ストレス抵抗性変異体の分離 酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定することを目的として、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を行うために、LTRの間に選択マーカーとしてプロモーターを欠いたハイグロマイシン抵抗性遺伝子とその上流にスプライス・アクセプター部位とリボソーム・リエントリー配列を有し、遺伝子内に挿入された場合にはどの領域でも、選択マーカーが発現するようにデザインしたレトロウイルスベクターを用いて、挿入遺伝子変異体ES細胞ライブラリーの作製を進めている。また、同様なウイルスベクターを用いて以前に分離した、メチル化剤の致死効果に抵抗性を示す変異体細胞株を用いて、酸化ストレスによる細胞死に対する抵抗性について簡単なテストを行い、抵抗性を示すことが疑われた細胞株について詳細を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析については、当初の計画通りに進める。Mutyh遺伝子欠損マウスから得られたサンプルを用いて次世代シークエンサーによるゲノム解析を行う。また、Msh2遺伝子欠損マウスを用いた酸化ストレス誘発小腸発がん実験で得られるサンプルを用いてComparative Genomic Hybridization (CGH) 解析を行い染色体不安定性について解析するとともに、次世代シークエンサーによるゲノム解析を行う。 (2) 酸化ストレス抵抗性変異体の分離について、酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定するために、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を継続して行う。使用するベクターは、LTRの間に選択マーカーとしてプロモーターを欠いたハイグロマイシン抵抗性遺伝子を持つジーントラップ型を用いる。ハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HygR)の上流にはスプライス・アクセプター部位(SA)とリボソーム・リエントリー配列(IRES)を有し、遺伝子内に挿入された場合にはどの領域でも、選択マーカーが発現するように作製されている。このレトロウイルスベクターを用いた手法に加えて、DECIPHERレンチウイルスshRNAライブラリーを用いた遺伝子発現抑制細胞の分離法の検討を行う。得られた遺伝子変異体細胞ライブラリー、あるいは遺伝子発現抑制細胞ライブラリーを酸化剤であるKBrO3を含む培地で培養し、酸化ストレス抵抗性細胞の単離を行う。単離した細胞のKBrO3感受性をコロニー形成法により厳密に検討する。また、アルキル化DNA 損傷に応答して細胞死に関わる因子として既に同定したものの中に、酸化DNA 損傷に応答して同様に細胞死に関わるものが含まれていないかを並行して解析する。
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