研究課題
細胞ががん化する過程では、様々ながん細胞特有な細胞機能の喪失・獲得が起こる。これら細胞機能の変化に関与する普遍的な遺伝子(群)の変異の同定は、発がん予防やがんの新しい治療法の研究に重要な基盤を与える。本研究では酸化ストレスを負荷することでマウス同一個体の小腸に比較的短期間で多数の上皮がんを誘発させる実験系を用い、誘発された多数のがん組織のゲノムワイドな突然変異解析を行い、独立のがん組織で共通に認められる遺伝子変異を探索することで、酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)や変異を明らかにする。また、酸化ストレスによる発がんの抑制に大きく寄与していると考えられる細胞死を誘導する分子機構に関わる因子を網羅的に同定するために、遺伝学的手法(挿入型突然変異体の単離)を用いてそれらの因子の分離・同定を行い、酸化ストレスに応答して能動的に誘導される細胞死に関わる系の解明を行う。(1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)を明らかにするためのMicorarray解析と次世代シークエンサーを用いたゲノム解析を行うために、MUTYH欠損マウス、Msh2欠損マウスおよびTrp53欠損マウスを用いて酸化ストレス誘発小腸発がん実験を行っている。一部のサンプルを用いてMicorarray解析を行った結果、KBrO3投与されたマウスでは抗酸化関連遺伝子群やDNA複製関連遺伝子群の発現が大きく変動していた。(2) 酸化ストレス抵抗性変異体の分離酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定するために、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を行った結果、酸化ストレス抵抗性を示す細胞株を2株(N2およびY1) 分離した。これらの変異体細胞株の酸化ストレス抵抗性について詳細に検討している。
2: おおむね順調に進展している
(1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析MUTYH遺伝子欠損マウスで酸化ストレスにより誘発される小腸腫瘍における遺伝子変異解析を行うための試料を得るために、野生型およびMUTYH遺伝子欠損マウスに0.15%KBrO3溶液を16週間投与(自由飲水)し、酸化ストレス誘発小腸発がん実験を行い、多数の上皮性腫瘍サンプルを得ることができた。現在、MUTYH遺伝子欠損マウスから得られたサンプルの一部を用いてエキソームシークエンス解析を行っている。MUTYH遺伝子欠損マウスに加えて、MSH2遺伝子欠損マウスとTrp53遺伝子欠損マウスを用いた酸化ストレス誘発小腸発がん実験が進行中である。また、0.15%KBrO3溶液を4週間投与したマウス小腸からRNAを抽出し、Micorarray解析を行った結果、KBrO3投与されたマウスでは抗酸化関連遺伝子群やDNA複製関連遺伝子群の発現が大きく変動していた。現在、マウスの遺伝子型と酸化ストレス賦与の有無に関して、これらの遺伝子群の発現パターンの詳細について解析中である。(2) 酸化ストレス抵抗性変異体の分離酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定することを目的として、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を行うために、LTRの間に選択マーカーとしてプロモーターを欠いたハイグロマイシン抵抗性遺伝子とその上流にスプライス・アクセプター部位とリボソーム・リエントリー配列を有し、遺伝子内に挿入された場合にはどの領域でも、選択マーカーが発現するようにデザインしたレトロウイルスベクターを用いて、挿入遺伝子変異体ES細胞ライブラリーを作製した。酸化ストレスによる細胞死に対する抵抗性示す2株の細胞株を分離し、詳細を検討している。
(1) 酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析については、当初の計画通りに進める。MUTYH遺伝子欠損マウスから得られたサンプルの一部を用いて次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を行う。また、MSH2遺伝子欠損マウスおよびTrp53遺伝子欠損マウスを用いた酸化ストレス誘発小腸発がん実験で得られるサンプルを用いてComparative Genomic Hybridization (CGH) 解析を行い染色体不安定性について解析するとともに、次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を行う。酸化ストレスにより変動する遺伝子群を同定するために、0.15%KBrO3溶液を4週間投与した各種遺伝子欠損マウス小腸からRNAを抽出してMicorarray解析を行い、抗酸化関連遺伝子群、DNA修復およびDNA複製関連遺伝子群、アポトーシス関連遺伝子群の発現パターンを、マウスの遺伝子型と酸化ストレス賦与の有無に関して詳細に解析する。(2) 分離した酸化ストレス抵抗性変異体に関して、酸化DNA 損傷応答の詳細を検証する。また、酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定するために、レトロウイルスベクターを用いた酸化ストレス抵抗性変異体の分離を継続して行う。このレトロウイルスベクターを用いた手法に加えて、DECIPHERレンチウイルスshRNAライブラリーを用いた遺伝子発現抑制細胞の分離法の検討を行う。得られた遺伝子変異体細胞ライブラリー、あるいは遺伝子発現抑制細胞ライブラリーを酸化剤であるKBrO3を含む培地で培養し、酸化ストレス抵抗性細胞の単離を行うことを検討する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 4件)
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