研究課題/領域番号 |
25241012
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
續 輝久 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40155429)
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研究分担者 |
中津 可道 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00207820)
大野 みずき 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70380524)
日高 真純 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (80238310)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発がん / 酸化ストレス / 突然変異 / 細胞死 / DNA修復 |
研究実績の概要 |
本年度は、独立のがん組織で共通に認められる遺伝子変異を探索することを目的として、KBrO3誘発発がん実験に用いたMutyh遺伝子欠損マウスおよびTrp53遺伝子欠損マウスを解剖後、RNAlaterまたは凍結保存された各組織からゲノムDNAを精製し、マウス全エクソーム(約50Mb)の解析をmiSeq2000にて行い、SNV検出を試みた[受託先:(株)マクロジェンジャパン]。全てのサンプルで、マップ可能リードは99%以上、ターゲット領域のカバー率 (x10) 94%以上、平均depthは約80の値が得られた。Mutyh遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍および心臓のサンプルでは、それぞれ3,000以上の変異がコールされ、そのうち約30%が遺伝子コード領域の一塩基置換型変異で、さらにそのうちの半数以上が非同義置換であった。欠失・挿入変異は全体の約30%であった。Trp53遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍および小腸正常組織サンプルでは約2,000の変異がコールされ、そのうち約25%が遺伝子コード領域の一塩基置換型変異で、さらにそのうちの半数弱が非同義置換であった。欠失・挿入変異は全体の約50%であった。Mutyh遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍のみで検出された変異は992サイトで、そのうち559サイトが塩基置換変異、433サイトが欠失・挿入変異であった。また、Trp53遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍のみで検出された変異は1,105サイトで、601サイトが塩基置換変異、504サイトが欠失・挿入変異であった。Mutyh遺伝子欠損マウスとTrp53遺伝子欠損マウスの腫瘍における突然変異スペクトラムはほぼ同様であった。また、これら2つのサンプルでは様々な多数の遺伝子に変異が見つかっているが、ある種の癌遺伝子には共通に変異が見つかっている。現在、変異した遺伝子群の詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞ががん化する過程では、様々ながん細胞特有な細胞機能の喪失・獲得が起こる。これら細胞機能の変化に関与する普遍的な遺伝子(群)の変異の同定は、発がん予防やがんの新しい治療法の研究に重要な基盤を与える。本研究では酸化ストレスを負荷することでマウス同一個体の小腸に比較的短期間で多数の上皮がんを誘発させる実験系を用い、誘発された多数のがん組織のゲノムワイドな突然変異解析を行い、独立のがん組織で共通に認められる遺伝子変異を探索することで、酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)や変異を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は、平成26年度に行ったMutyh 遺伝子欠損マウスおよびTrp53遺伝子欠損マウスを用いたKBrO3誘発発がん実験で得られた小腸腫瘍の全エクソーム解析を計画通りに行った。その結果、Mutyh遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍では992変異(塩基置換変異:559、欠失・挿入変異:433)が検出され、Trp53遺伝子欠損マウスの小腸腫瘍では1,105変異(塩基置換変異:601、欠失・挿入変異:504)が検出された。これらの腫瘍では、様々な遺伝子のコード領域で非同義置換、ナンセンス変異、フレームシフトが検出されている。また、ある種の癌遺伝子では、これらの腫瘍で共通に変異が検出されている。 以上のことから、本年度までの研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)酸化ストレス誘発小腸がんのゲノムワイド変異解析については、当初の計画通りに進める。Mutyh 遺伝子欠損マウスおよびTrp53遺伝子欠損マウスを用いたKBrO3誘発発がん実験で得られた小腸腫瘍の次世代シークエンサーを用いた全エキソーム解析を継続して行う。また、Comparative Genomic Hybridization (CGH) 解析による染色体不安定性の解析、平成26年度に行ったマイクロアレイ解析の結果と合わせて解析し、酸化ストレス誘発発がん過程において普遍的に変異する遺伝子(群)や変異を明らかにする。 (2)酸化ストレス抵抗性変異体の分離について、酸化ストレス誘発細胞死に関わる遺伝因子を網羅的に同定するために、レトロウイルスベクターを用いた突然変異体の分離を継続して行う。使用するベクターは、LTRの間に選択マーカーとしてプロモーターを欠いたハイグロマイシン抵抗性遺伝子を持つジーントラップ型を用いる。ハイグロマイシン抵抗性遺伝子(HygR)の上流にはスプライス・アクセプター部位(SA)とリボソーム・リエントリー配列(IRES)を有し、遺伝子内に挿入された場合にはどの領域でも、選択マーカーが発現するように作製されている。これまでの研究では新たな変異体が分離できていないことから、このレトロウイルスベクターを用いた手法に加えて、DECIPHERレンチウイルスshRNAライブラリーを用いた遺伝子発現抑制細胞の分離法の検討を行い、遺伝子発現抑制細胞ライブラリーを酸化剤であるKBrO3を含む培地で培養し、酸化ストレス抵抗性細胞の単離を行う。アルキル化DNA 損傷に応答して細胞死に関わる因子として同定したものの中に、酸化DNA 損傷にも応答して同様に細胞死に関わるものが含まれていたことから、アルキル化剤抵抗性細胞の単離も行う。
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