研究実績の概要 |
本年度はペットネコの有機ハロゲン化合物およびその水酸化代謝物の汚染実態解明と甲状腺ホルモンへ及ぼす影響を明らかにするため、ネコ血清中PCBs, PBDEs, OH-PCBs, OH-PBDEs, MeO-PBDEs、BPhsを分析するとともに、液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて甲状腺ホルモンを高精度で測定し、有機ハロゲン化合物が甲状腺ホルモンの恒常性に及ぼす影響について検証した。
1) 有機ハロゲン化合物および水酸化代謝物による汚染の実態解明: 日本の動物病院で採取したペットネコの血清を分析した結果、すべての試料からPCBs, OH-PCBs, PBDEs, OH-PBDEs, およびBPhsが検出され、Deca-BDEが最も高値を示した。日本におけるPBDEs製剤の使用はDeca製剤が主体であり、キャットフードやハウスダストも同様の組成を示していることから、ペットネコに対するDeca製剤の影響が推察された。 2) 甲状腺ホルモンの分析と影響解析: 甲状腺ホルモンと各有機ハロゲン化合物濃度の関係を解析した結果、PBDEsとT4, T3, rT3との間に強い負の相関関係が認められた。この原因として、Deca-BDEが甲状腺におけるT4の生成を阻害したことで、関連するT3およびrT3の血中レベルも低下したことが示唆された。一方、天然起源のハロゲン化フェノール類であり、ペットフードからの高曝露が指摘されているOH-PBDEsは、甲状腺ホルモンとの有意な相関関係がみられなかった。 また、複数の有機ハロゲン化合物がrT3と有意な負の相関関係を示した。rT3はホルモン活性をもたないが、肝臓において過剰に生成されたT4の量を調節する働きを担っている。このことから有機ハロゲン化合物によるrT3の撹乱は、甲状腺ホルモンの恒常性に影響を及ぼすことが推察されそのリスクが懸念された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度に引き続き、動物病院の協力を得て採取したペットのイヌ・ネコの血清分析が順調に進展した。また、比較対象としてポルトガルで採取したネコ血清を分析することで、日本国内のペットネコは、Deca-BDEと天然起源のハロゲン化フェノール類として知られる6OH-BDE47の汚染が顕著なことを明らかにできた。 また、「甲状腺ホルモンの分析と影響解析」においても、LC-MS/MSを用いた甲状腺ホルモンの高精度分析法を適用することで、PBDEsとT4, T3, rT3との間に強い負の相関関係を認めたこと、さらには複数の有機ハロゲン化合物はrT3と有意な負の相関関係を示すことを明らかにできた。 現在、 飼い主の協力や市販品の購入によって収集したペットフード(海産物や加工肉を原材料とする固形乾燥餌や缶詰、パウチ餌)とハウスダストを分析し、ペット動物の汚染物質暴露経路の解明を進めている。 以上の結果から、平成26年度の研究計画は順調に進展し、年度目標はほぼ達成できたと考えている。
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