研究課題/領域番号 |
25241016
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
権藤 洋一 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, チームリーダー (40225678)
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研究分担者 |
姫野 龍太郎 独立行政法人理化学研究所, 情報基盤センター, センター長 (60342838)
舘田 英典 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70216985)
茶野 徳宏 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (40346028)
大野 みずき 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70380524)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 突然変異検出 / マウスゲノム / 次世代シーケンシング / 遺伝学 / 生殖細胞系列突然変異 / ビッグデータ / 環境影響評価 / ゲノム機能 |
研究実績の概要 |
本年度は、新学術領域ゲノム支援を新規に受け、のべ5世代独立に自然発生突然変異を選択淘汰なしに蓄積した8家系のマウス個体8匹からゲノムDNAおよび全ゲノムシーケンシング(WGS)を8月と10月の2回に分けて開始し12月にはWGSデータが得られた。さらに、ゲノム支援との共同研究として変異抽出のための情報解析にも着手し一次候補がすでに得られた。点突然変異マウスを用いる生物学的機能解析では、1)Wntシグナル伝達系の軸を担うβカテニン遺伝子のCys429Serアミノ酸置換マウスが卵子や精子は正常にも関わらず内性器形成異常により雌雄とも不妊となることを示した(Murata et al. Sci. Rep. 2014)。この変異βカテニンタンパク質は体全体で生涯発現していながら、内性器形成時にのみ異常をもたらし、それ以外では正常な機能を示した。2)Hhシグナル伝達で下流遺伝子群の転写制御を担うGli転写因子群のなかでGli3だけに特異的な制御機構を、その上流遺伝子Sufuタンパク質の396番目のThr残基が担っていることを点突然変異マウスの解析から明らかにした(Makino et al. PLOS ONE, 2015)。以上はアミノ酸置換をもたらす点突然変異の解析によってはじめて可能なゲノム機能解析の典型的な例となった(以上担当権藤)。1塩基置換による致死変異とその修飾変異の同定について詳細な時系列的解析を進めた(担当茶野、権藤)。酸化ストレス高感受性マウスでは、生殖細胞/体細胞ともにG>T置換が8oxo-Gによって高頻度に生じるとともに発がんなど個体レベルでの異常も増加していた(担当大野、権藤)。ヘテロ接合でのみ蓄積される家系と兄妹交配でホモ接合となりやすい家系における変異蓄積の理論集団遺伝学的予測を行った(担当館田、権藤)。WGSによって、当初計画を大幅に越えるビッグデータとなったので保管転送公開に向けた基盤整備計画を再検討した(担当姫野、権藤)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本基盤研究A課題を元に新学術領域ゲノム支援の新規課題として今年度採択され、全ゲノムシーケンシング(WGS)によって自然発生突然変異検出を行うことが可能となったのが大きな理由である。当初計画では独立に蓄積した4個体から全エキソームシーケンシング(WES)で変異検出予定であったが、ゲノム支援によって、独立に変異を蓄積した8個体からWGSで検出できることとなった。解析個体数が2倍、さらに、WESが50Mbの全エキソームから変異抽出するのに対しWGSでは3000Mb全ゲノムから抽出できるため、単純計算で、当初計画より、(8匹/4匹)×(3000Mb/50Mb)=120倍の自然発生突然変異の検出が期待できることになった。しかも、2年目から3年目にかけてのWES解析が、2年目のH26年12月に全WGSデータが得られ、当初の計画以上に進展した。 また点突然変異マウスを用いた解析からも当初の計画を越えた成果がすでに得られ原著論文発表に至った(Murata et al. Sci Rep 2014; Makino et al. PLOS ONE 2014)。それぞれWntおよびHhシグナル伝達系というユビキタスな伝達系のなかで機能するβカテニンおよびSufuの点突然変異マウスを用いたため当初計画以上に進展した。両遺伝子とも必須遺伝子でありノックアウトすると形態形成以前の胎生早期致死となる。それが点突然変異マウスでは発生が形態形成期以降まで進むと予想はしていた。実際に、SufuのThr396Ileアミノ酸置換ホモ接合マウスは脳神経系および四肢形成まで進んだ。これによって、当初の予想を超え、四肢形成に重要な転写制御因子Gli3にのみSufuThr396Ileは異常をもたらし、Gli1/2などの機能には影響しないという計画以上の新発見に至った。βカテニンCys492Serマウスも正常に生まれ、不妊という以外にはこれといった異常はないというこれも予想しない結果が得られたため、Wntシグナル伝達の組織毎発生時期毎の詳細な使い分けを解明するモデルとなりうることを示し得た。
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今後の研究の推進方策 |
WGS解析が完了した8匹のゲノムから、インフォーマティクス解析を駆使して、どこにどのような変異が蓄積されているか、候補抽出を行う。抽出された候補については、発見したそのマウス個体ゲノムおよびのべ5世代に渡って変異を蓄積してきたマウス家系全体について実験的にその変異の有無を検証し、真の突然変異であることと、さらに、どの個体で新規に生じどのように解析した個体まで遺伝したか8つの大家系全体についてトレース解析も実施する。これによって代表的標準実験系統C57BL/6Jマウスの自然発生突然変異率およびスペクトルが高精度なレベルで明らかとなり、本課題の大きな目標である微量変異原のリスク評価の基準となる「ゼロ変異原値」が明確になる。また、点突然変異マウスが、予想を越えて詳細なゲノム機能を解明していく強力なツールとなることを示したので、さらに、国内外の研究者やコミュニティーと連携し大規模に展開していく。とくに、変異間相互作用をもたらすリソースとしての有用性を示す成果へと発展させ複合形質モデル化を目指す。酸化ストレス高感受性家系においてはG>Tへの塩基置換だけが高頻度に生じるという知見が得られたので、この生物学的機能解明および酸化ストレス以外の内在性要因やさらには体細胞突然変異と生殖細胞系列突然変異の違いの解明など、発展的融合的に進めていく。この予想を遥かに越えた進展によって、一番の課題となっているのが、次世代シーケンサーで得られるデータがさらに120倍のビッグデータとなったことである。そのために、当初計画の100倍以上の規模の情報インフラがビッグデータの保存だけでも必要となり、解析においては必要規模がさらに相乗的に増加すると予想される。そこで、対応策として、データの保存解析転送から公開に必要なインフラ整備を理研情報基盤センターにおいて分担研究者である姫野情報基盤センター長を中心に整備していく予定である。
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備考 |
中略1全文:形態形成などに関わるHhシグナル伝達系の分子機構の一端を解明-Sufu遺伝子はHhシグナル伝達系の最下流に位置する転写因子を制御- 中略2全文:「気分の波」を緩和する薬剤の作用メカニズム解明に一歩前進-細胞内でイノシトールを合成する生化学的経路は下顎の発育にも関与-」
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