研究課題/領域番号 |
25241026
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
正木 隆 国立研究開発法人 森林総合研究所, 森林植生研究領域, 領域長 (60353851)
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研究分担者 |
小池 伸介 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40514865)
菊地 賢 国立研究開発法人 森林総合研究所, 森林遺伝研究領域, 主任研究員 (10353658)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 長距離散布 / 大型哺乳類 / 遺伝子流動 / ヤマザクラ / ウワミズザクラ |
研究実績の概要 |
ツキノワグマ、ニホンザル、テンの糞に含まれるカスミザクラ種子のジェノタイピングを行なった結果、1糞あたりの散布種子の母樹数はテンで2.1母樹、ツキノワグマとニホンザルで2.9~3.4母樹と推定され、大型の哺乳類ほど多数の母樹の種子を散布していることが示された。また、ツキノワグマの一回のカスミザクラ種子採取数は平均7218個と推定され、ニホンザル(一回の種子採取84個)と比べると80倍以上の種子を一度に散布していることが示された。カスミザクラ1母樹あたりでみると、ツキノワグマが種子をもっとも多く散布し、その数は鳥類の2倍以上であった。ツキノワグマによって散布される種子のうち、50%が散布される範囲は約400m以内と推定され、鳥類(約130m以内)のほぼ3倍に相当していた。さらに、酸素同位体分析による分析の結果、ツキノワグマはカスミザクラの種子を平均標高差307m上方に散布していると推定された(テンは平均標高差193m上方)。以上のように、大型哺乳類は種子散布能力が距離・量の両面において高いだけではなく、気温が上昇傾向にある気候変動下では、気候的により適した場所に種子を運ぶ傾向のあるという、興味深い結果も示唆された。その一方で、サクラ属8集団の遺伝構造を核SSR12座によって解析した結果では、大型哺乳類の分布する地域で空間的に強い遺伝構造が検出された。これは予想に反した結果であり、花粉による遺伝子流動や調査地の景観構造を考慮しても十分な説明の難しい現象であった。とはいえ全体としては、大型哺乳類は種子散布を通じて、特に気候変動下で樹木個体群の維持と生物多様性の維持に貢献する役割を担っている可能性が高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までに、大型哺乳類の長距離種子散布の実態が計画通りに明らかになり、空間遺伝構造の違いの解明もほぼ終了した。以上のことから、研究はおおむね順調に進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度にあたるので野外データの採取は補足的なものにとどめ、本研究課題の最終目的である、大型哺乳類による長距離散布がどのようなプロセスで空間遺伝構造に反映されるか、の解明を行なう。昨年度までの結果で大型哺乳類が分布する地域で、予想に反して強い空間遺伝構造が検出されたので、そのような現象が生じるプロセスを解明することで、これまでの常識をくつがえすような生態現象・理論を提示できる可能性があると考えている。
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