研究課題/領域番号 |
25242023
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
足立 和成 山形大学, 理工学研究科, 教授 (00212514)
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研究分担者 |
渡辺 裕二 拓殖大学, 工学部, 教授 (30201239)
西脇 智哉 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60400529)
柳田 裕隆 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (80323179)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 保存科学 / 文化財建造物 / 超音波音速CT |
研究実績の概要 |
平成27年度は島根県出雲市にある出雲大社参道の勢溜(せいだまり)の鳥居の木製(台湾檜)の柱を、前年度に計測の自動化を実現した超音波音速CTシステムを用いて探査した。その結果、勢溜の鳥居は腐朽の進行が著しく、正常な木柱なら確認できるはずの音波伝搬が全く確認できない部分が多数あり、探査した3断面のうち辛うじて1断面しか画像化できなかったことから、倒壊の危険があることを大社側に指摘した。その指摘を受けて出雲大社はこの鳥居を取り壊し鉄製の鳥居で再建することを決定している。また雨天での探査実験であったことから、雨滴から装置の電気的接点を確実に守るより効果的な工夫が必要であることが判明した。上記の探査結果は、協力を頂いた公益財団法人文化財建造物保存技術協会(以下「文建協」)に報告したが、さらに平成28年6月に開かれる日本文化財科学会の第33回大会でも発表する予定である。 また、山形市教育委員会の依頼を受け、山形市にある凝灰岩製の元木の鳥居の簡便な超音波探査を行い、その劣化が著しいことを見出したり、文建協の協力を得て、山形県鶴岡市にある木造の旧鶴岡警察署庁舎の探査実験も行っている。 前年度に行った岩手県二戸市の天台寺本堂の超音波探査の結果は、平成27年7月に開かれた第32回日本文化財科学会で発表したが、出雲大社の素鵞の社(さがのやしろ)等の探査結果については、大社側の要望により、まだ公表できていない。一方、技術的研究成果については、11月に計測自動制御学会英文誌に画像信号処理手法に関する学術論文を掲載するとともに、同年12月にシンガポールで開かれた国際学会(WESPAC2016)でも別の信号処理手法についての基礎的研究結果を発表し、講演論文を議事録に掲載させた。それ以外にも、平成28年3月日本音響学会春季研究発表会で2件の技術的研究成果を口頭発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
追加採択のために研究初年度の研究期間が4か月しかなかった影響が、まだ尾をひいている。特に小型強力超音波音源の開発があまり進んでいない。一方、画像信号処理の手法や計測システム全体の制御などに関しては、ほぼ当初計画していた水準の成果が上げられそうである。実際円形断面の探査対象については、音波伝搬時間測定の完全自動化を達成し、また画像・信号処理手法に関しては、有効と思われる方式を考案でき、シミュレーションによって、実用上有効たり得ることが証明されている。ただ、実用的側面においては、その画像・信号処理手法における数値パラメータの設定手法がまだ未完成である。開発された画像・信号処理手法に関する成果については、計測自動制御学会の英文誌に学術論文として掲載されている。 最終的に現場で使用可能なシステムを構築することが、本研究の最も重要な目的である。そのために、当初計画の大幅な見直しと変更を行うことで、研究期間の短縮にもかかわらず、その最大の目標は確実に達成できる見通しがたったことから、研究業務遂行上の大きな誤りはなかったと考えられる。やはり、8か月間の研究期間短縮は、当初計画の目標を完全に達成することを極めて困難にしたと言わざるを得ない。むしろ、その影響を音源の開発に関わるところだけに限定することには成功し、本研究の最も重要な目的達成の目途はたったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の遅れを完全には取り戻せていない以上、最終年度も残された小型強力超音波音源の開発(改良)を実現する努力は最後まで続け、研究目標の完全な達成を目指す。幸い、装置の構成はモジュール化されており、ここまでに達成された計測システムの改良を無駄にしないで、その時点までの音源改良の効果を付け加えることができる。またソフトウェアの改良も続け、探査現場での可視化を可能にする。 従って、今年度の現場での探査実験は、その時点で出来上がっている装置の有効性を確認するために必要な範囲に留め、むしろ装置の実用上の有用性を高めるマニュアルの整備などに努め、完成した装置の文化財建造物保存の関係者への貸し出しができる体制を整えることに注力する。探査実験の候補場所はまだ決まっていないが、薬師寺東塔や東大寺正倉院などを検討している。 研究代表者を除く、各研究分担者の役割は、それまでの研究の成果を踏まえて、完成した装置の使用方法などに関する工夫の創出やソフトウェアの改良などが主たる任務になる。一方、研究代表者には、探査実験で判明した雨天使用のための装置の防滴化やキャリングケースの作製等、その完成度を高め個別の研究成果を完成された装置に統合することが最大の任務となる。そのため研究分担者への研究費配分はかなり少なくした。 最後に研究成果を冊子体の報告書にまとめ、将来の発展的な研究に資する資料としてまとめる。
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