研究課題
本研究は,最先端のマルチビーム測深を用いて作成する精密海底地形図を基に,これまでの知見が少ない浅海底地形とその形成について議論を行う。また,作成した海底地形図を基に自然科学から社会・文化科学にわたる学際研究を行う。平成26年度は以下を実施した。まず,研究代表者の異動に伴い4月に全機材・資試料を九州大学へ移管した。今年度予定した調査地(沖縄島北西部)では事前に受け入れ体制を整えた後,8月下旬~9月上旬に測深調査を実施した。測深域は本部半島沿岸や瀬底島・水納島・伊江島・古宇利島周辺など14海域である。得られたデータについては現在後処理を実行中である。さらに,測深によって発見した石垣島名蔵湾の沈水カルスト地形について論文を公表し,記者発表をおこなった(九州大学 26年8月25日)。論文はオープンアクセスにして広く閲覧が可能とするとともに,今後の図版利用を自由に行えるようエルゼビア社から版権を取得した。これらの図版等の利用については,九州大学産学官連携本部知的財産グループとの話し合いをもち,共同研究実施方針を作成した。その上で,琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底実験場および八重山ダイビング協会と秘密保持契約を締結した上で,10月~11月に名蔵湾の19カ所に潜水し生物群集調査を実施した。コドラートを用いた詳細な調査結果は現在解析中であるが,その概略は日本サンゴ礁学会および日本地理学会で発表した。名蔵湾は従来,赤土の流入が著しく造礁サンゴの被度が低い海域と認識されていたが,我々の調査では大規模かつ独特な現生サンゴ群集が湾内各所で認められた。これを受けて25年度に実施した掘削コアの岩相を解釈することが可能となり,分担者等と共同でコアの記載を実施した。潜水調査時に採取した堆積物試料についても粒度分析・X線回折実験などを実施している。
2: おおむね順調に進展している
ワイドバンドマルチビーム測深機を用いた浅海底地形の三次元マッピングが学会等で注目される成果を上げている。名蔵湾での沈水カルスト地形や大規模サンゴ群集の発見には,同地域で研究を重ねてきた研究者からも,今の時代にこのような大きな発見があるとは驚きであるとのコメントをいただいた。また,プレスリリースを受けて沖縄県や石垣島などでも関心が高まっている。人口約5万人の石垣島沿岸域で未知の地形と大規模な生物群集が発見されたことは,人里に近い沿岸域であっても未だ科学的知見がきわめて少ないことを示している。本研究の意義が学会はもとより一般にも認識されつつあると感じる。26年度に実施した本部半島周辺海域の測深調査は,天候・海況に恵まれきわめて順調に進んだ。結果は現在解析中であるが,良いデータが得られているものと確信する。また,年度後半に実施した生物群集調査など精密海底地形図を基にした研究も進んでいる。研究グループ内でのミーティングも重ねており,今後の学際研究についても多くの研究計画が立案された。
本研究で作成中の精密三次元海底地形図は,その上に載せる情報を充実させることによって,これまでにない科学的成果をあげることが可能である。マルチビーム測深はきわめて順調に進んでいるが,予算上の制約から,今後は海底地形調査・試料採取・水質調査・人文科学的調査など広範な分野にわたる現地調査を充実させる方向で研究を推進させたい。具体的には海陸シームレス精密地形図の作成,地層探査,堆積物調査,多地点水質鉛直分布測定調査などを実施するとともに,これまでのボーリング調査・生物調査・水中文化遺産調査等とあわせて成果を公表するよう進める方針である。
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