研究課題
本研究では,最先端のマルチビーム測深を用いて作成する精密海底地形図を基に,これまでの知見がきわめて少なかった浅海底の地形とその形成について議論を行い,従来の地形学にない「浅海底地形学」を開拓する端緒となる研究へと発展させることを目指す。さらに,作成した精密海底地形図を基に,自然科学から社会・文化科学の領域にわたる学際研究を展開することを目指している。27年度はまず,久米島ハテノハマ周辺海域を対象として,測深海域に隣接する陸域・極浅海域にて,無人航空機(UAV)およびパラモーターを用いた空中写真撮影を行った。また,ハテノハマ周辺の精密海底地形図作成海域およびその周辺海域19箇所にて,海底堆積物および現生有孔虫群集の潜水調査を実施し,試料を採取した。さらに,SCUBA潜水が難しい深度(水深50~135m)の海底についてVTRを用いて観察する手法を成功させることができた。これによって,島棚および島棚斜面の精密海底地形図に現地観察を加えることが可能となった。石垣島においては,本研究で採取した名蔵湾のボーリングコア(掘削長60m)について,コアの記載を進めるとともに,同海域で地層探査を実施し,後氷期サンゴ礁堆積物と更新世石灰岩との境界を明らかにするべくデータ解析を進めている。さらに名蔵湾では,精密海底地形図を作成した海域にて9月上旬に多地点水質鉛直分布測定調査を実施し,地形に応じた水塊構造の発達とその動態を明らかにするべく,データ解析を進めている。一方,石垣島および石西礁周囲のサンゴ礁地形,とくに礁縁部の縁脚縁溝系の地形について,海岸による違いを明らかにするための潜水調査を実施した。水中考古学と連携した石垣島屋良部沖の水中文化遺産については,マルチビーム測深による精密海底地形図を基にした分布域の把握とその解釈に関する研究が結実し,成果を公表するに至った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で進めるワイドバンドマルチビーム測深機を用いた浅海底地形の三次元マッピングが,学会等で注目される成果を上げている。本研究による石垣島名蔵湾の沈水カルスト地形における大規模サンゴ群集の発見の後,27年度後半には環境省が名蔵湾でのサンゴ調査を開始するなど,当該海域の再評価が進もうとしている。本研究が目指す社会に対する貢献も形になりつつあると実感する。27年度には,これまでの測深域のうち久米島・石垣島・本部半島で作成した精密海底地形図を基にした,学際的な潜水調査等を実施した。調査は天候・海況に恵まれきわめて順調に進んだ。また,1月には福岡にて研究グループのミーティングと,メンバーによるシンポジウム「東アジア島嶼沿岸域における広領域学際研究」を2日間開催し,のべ266名の参加を得た。現地調査およびシンポジウム等を通した学際研究が軌道に乗ってきた。
ひきつづき,精密海底地形図を基に「浅海底地形学」を開拓する研究,自然科学から社会・文化科学の領域にわたる学際研究を展開する予定である。27年度に本部半島沖の水深40mの海底に沈む第二次大戦時の水中遺産について現地で潜水調査を行った。調査対象は第二次大戦末期の沖縄戦において日本軍特攻機の攻撃によって航行不能となり沈められたUSS Emmonsである。全長約100mの船体を撮影した1716枚の写真を用いてSfMソフトPhotoScanを用いた3Dモデルを作成した。陸域の遺跡と異なり,GPSを直接用いることができない水中にて,大規模な水中文化遺産を高精度かつ三次元で可視化することはきわめて難しいが,我々はマルチビーム測深により得られた高精度参照点をSfMソフトウエアに基づく3次元モデルに与えることで,この問題を解決することに成功した。成果を国際学会で発表する予定である。また,本研究にて名蔵湾で掘削したコアの層相解析・年代測定・堆積物分析をすすめ,まとめる予定である。また27年度に久米島南東岸で採取した堡礁の堆積物について,粒度・構成物の分析を進める予定である。また,6月に開催される国際サンゴ礁学会などで,我々がサンゴ礁域で進める海底地形学の成果を発表する予定である。
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