研究課題/領域番号 |
25242046
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
乾 隆 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (80352912)
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研究分担者 |
土居 久志 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, チームリーダー (00421818)
片岡 洋祐 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, チームリーダー (40291033)
石橋 宰 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (70293214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DDS / 難水溶性薬剤 / 生体内輸送蛋白質 / リポカリン蛋白質 / 癌指向性 / ナノカプセル |
研究概要 |
本研究の目的は,難水溶性ではあるが優れた薬理効果を発揮する薬剤を標的部位へ適確に輸送するためのドラッグデリバリーシステムを構築することにある。 様々な難水溶性薬剤の可溶化を実践するために,薬剤データベースを用いたリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)と薬剤とのドッキングシミュレーションを行い,高結合親和性を示した薬剤についてL-PGDS溶液中における濃度を測定した。その結果,1 mM L-PGDS溶液において,Telmisartan濃度は1540 μM,Nilotinib濃度は85.4 μM,Lapatinib濃度は574 μM,およびMCC-555濃度は707 μMとなり,PBS溶液と比較して薬剤濃度が7.2~116倍上昇し,L-PGDSが分子量350~600程度の難水溶性薬剤を容易に可溶化できることが判明した。 次に,タンパク質ナノカプセルの作製を行った。カプセルは,L-PGDSのC末端に癌細胞内誘導性のCRGDKペプチドを付加し,タンパク質内に蓋の役目を果たすジスルフィド結合を導入したものである。本カプセルをGFP融合カプセルとし,PC-3前立腺癌細胞への取り込み実験を行ったところ,確実に細胞内に導入されることが共焦点蛍光顕微鏡下で確認された。 さらに,in vivoにおける薬物動態学的評価を行うために,Wistar系ラットにSN-38内包L-PGDS(2 mg/kg)を大腿静脈から投与した。血清中のSN-38濃度をHPLCにより測定した。その結果,ラットにおけるSN-38の血中半減期は2.0時間であった。一方,colo201担癌ヌードマウスにSN-38内包L-PGDSを投与し,各組織に集積したSN-38量を測定した結果,6時間後における腫瘍1 gあたりのSN-38量は0.24 ± 0.13 μgとなり,確かにSN-38が腫瘍に送達されていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載のように,平成25年度は,1)製薬企業が有する様々な難水溶性薬剤とL-PGDSとの結合親和性と可溶化の測定,2)タンパク質ナノカプセルの作製,3)in vivoにおけるSN-38の薬物動態の測定とSN-38内包L-PGDSの薬理効果の測定,4)SN-38のPETプローブ作製などを目指しており,PETプローブの作製に時間を有して入るが,概ね予定どおり研究は進んでいる。 1)では,L-PGDS溶液中における各種難水溶性薬剤の可溶化が予想以上に優れており,当初の計画以上の結果が得られている。可溶化できる薬剤の分子量も最大800~900程度と予想され,多くの難水溶性抗癌剤がこの範疇に入ることから,癌指向性を確実にできれば,副作用の少ない抗癌剤により癌治療が可能になる。 2)では、遺伝子組換え技術により,L-PGDSのC末端に癌細胞内誘導性のCRGDKペプチドの付加に成功し,さらにタンパク質内に蓋の役目を果たすジスルフィド結合の導入に成功したことより,予定どおり推進できていると判断した。SN-38内包カプセルのin vivoにおける抗腫瘍効果を今年度測定予定である。 3)今年度達成予定であった,SN-38の体内動態に関しても,HPLCによるUV測定によりある程度まで測定することができたことから,この側面からも研究の順調性が伺える。今年度は,蛍光検出器により,より定量的な薬物動態の測定を行う予定である。 以上より,本申請研究は,概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,昨年度作製したタンパク質ナノカプセルに対する難水溶性抗癌剤SN-38の結合親和性,結合比,および熱力学的パラメータを等温滴定型熱量計により決定し,カプセル投与時の薬剤濃度を正確に把握する。また、本DDS技術確立のために,SN-38内包カプセルを用いたin vivoにおける薬理学的評価を行う。αvβ3-, あるいは αvβ5-integrin,およびneuropilin-1の発現が確認されているヒト結腸線癌(HT29)をBALB/cヌードマウスの皮下に移植する。移植後,癌組織の定着,及び増殖を確認し,体積が150 mm3に達した時点から,SN-38内包タンパク質ナノカプセルを尾静脈内に投与する。カプセルに内包されたSN-38の濃度は,SN-38の分子吸光係数により決定する。投与は,1回/2日とし,体重減少等の副作用が見られない最大SN-38濃度を投与する。投与後2週間の抗腫瘍効果をPBS投与群と比較検定する。副作用の有無は,摘出大腸(直腸)をHE染色し,顕微鏡下にて評価する。一方,カプセルによる抗原性の有無を確認するために,ddy系マウスを用いて,直腸温変化,及び体内IgE量を指標にしたアナフィラキシー誘発実験を行う。 さらに,PET研究では,昨年度に引き続きカプセルに内包するSN-38のPETプローブ化を行う。本プローブをカプセルに内包する合成手法,特にPET放射性条件下におけるカプセル上部開口部のジスルフィド化について,その効果的合成法を検討する。カプセル内包化が実現できれば,カプセル化PET分子プローブをマウスに投与し,PETイメージング研究を行う。一方,PETプローブ化されたSN-38やその類縁体を含めた難水溶性薬剤は,担癌マウス尾静脈へ投与し,癌組織への集積を評価する。加えて,薬物動態に関しては,より感度の良い蛍光検出器を用いて,昨年度得られたデータの検証を行う。
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