研究課題
基盤研究(A)
[①細胞凍結保護高分子の凍結機序の解明]高分子合成により種々の両性電解質高分子を合成し、どのような官能基等が凍結保護に重要な影響を及ぼしているのかを調べる。細胞膜との親和性が影響している可能性があるため、疎水性基を導入し、保護活性が向上するかを確認する。リン脂質膜であるリポソームとの相互作用や、タンパクとの相互作用などを通して総合的に細胞保護活性を調べる。溶液が凍結する際、凍結濃縮と呼ばれる塩の濃縮が起こり、そのため細胞は急激な浸透圧ストレスにさらされる。高分子の添加は、濃縮された塩分子を高分子鎖にトラップさせることによる凍結濃縮の緩和である可能性があり、その分子的メカニズムを低温固体NMRにより解明した。[②細胞シートなどの再生組織の凍結保存法の開発]一般に受精卵などのように大きな細胞も同様に凍結保存が困難なことから、生殖医療の分野ではガラス化法と呼ばれる特殊な凍結法が開発されてきた。その手法は溶質濃度を高めることにより水の結晶化を抑え、凍結のダメージを抑制するという手法であり、十分凍結液が細胞内に浸透した後、液体窒素に浸漬することで細胞をガラス状態で固化させることを特徴とする。その手法を組織にも応用し、さらに凍結保護作用のある両性電解質高分子を添加することでDMSOやEGの毒性の緩和、細胞保護作用などにより、効率のよい凍結保存が達成された。[③受精卵、卵巣、精巣などの生殖組織の凍結保存法の開発]動物モデルを作成し、既存のガラス化法などの凍結法と今回開発した凍結保護物質を用いた凍結法とを比べ、最適な凍結保存法をみいだした。[④受精卵保存用デバイスの開発]保存液の体積を極少化し、デバイスの形状と素材を厳選し、液体窒素に浸漬したときの冷却速度を最大化できるデバイス(収納容器)を作製する。このデバイスを用いてマウス受精卵、主に胚盤胞率ハッチング率を指標に研究を進め本デバイスが作成できた。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度研究計画の達成のため下記目標を掲げた。①目標:細胞凍結保護高分子の凍結機序の解明②目標:機序に基づいた最適凍結保護物質の分子設計③目標:細胞シートなどの再生組織の凍結保存法の開発④目標:受精卵、卵巣、精巣などの生殖組織の凍結保存法の開発⑤目標:受精卵保存用デバイスの開発上記の目標で、②の目標は現在も継続中であるが、その他の目標はおおむね達成できた。
[①温度コントロールによる凍結保存の最適化と自動化装置の開発]プログラムフリーザーを用いて、細胞保存液の凍結時の温度効果速度をコントロールし、生存率との相関性を確認する。その際、種々の凍結保護高分子の存在下での凍結スピードへの生存率の影響も調べる。ガラス化においては非常に速い凍結スピードが要求される。そのスピードを達成するようなデバイス、自動凍結機の設計、開発を行う。[②ヒトiPS細胞および幹細胞の凍結保存法の確立]シングルセルにすることによるアポトーシスを防ぐことはROCK阻害剤を添加することで解決できると考えられる。一般に緩慢凍結では10%DMSO保存液でも生存率が低く、30%程度が限界である。そこで、新規両性電解質高分子凍結保護剤を添加することでの向上を目指す。細胞膜親和性を高める目的で疎水性基を少し導入することで細胞の生存率向上を図る。[③機序に基づいた最適凍結保護物質の分子設計]平成25年度で開発した種々の凍結保護性高分子化合物を各種細胞・組織に適した分子設計を行い、各機関との緊密な連携、研究成果のフィードバックを効率よく行いながら凍結保存実験を網羅的に行うことで最適な凍結保護技術を確立させる。[④各種再生組織・幹細胞・生殖組織の凍結保存技術の確立]これまでに開発された種々の凍結保護作用をもつ新規高分子を用い、申請者らがこれまで培ってきた凍結保存技術と組み合わせて完全な凍結保存技術を開発する。[⑤凍結装置の自動化]これまで開発してきた凍結法および凍結条件を元に、温度プログラムを各細胞や組織に最適化し、安全かつなるべく簡易な装置設計を行う。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件)
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