研究課題/領域番号 |
25242065
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田中 宏暁 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (00078544)
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研究分担者 |
檜垣 靖樹 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (10228702)
道下 竜馬 福岡大学, スポーツ科学部, 助教 (10632028)
清永 明 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (70177955)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 健康寿命 / 介護予防 / 至適運動強度 / 運動トレーニング |
研究実績の概要 |
平成26年度は,間欠式運動における骨格筋PGC-1αと血清IGF-1の発現を誘導するとともに,安全性が高く運動習慣が形成されやすい運動条件を確立するため,健常男性6名を対象に間欠式運動における運動強度の違いが血清IGF-1濃度の変化に及ぼす影響について検討した。その結果,乳酸閾値(LT)の80%強度では有意な差は認められえなかったが,LT強度やOBLA(最大酸素摂取量の75-80%に相当)強度では一過性運動中の血清IGF-1濃度の有意な上昇が認められた。本研究の結果より,一過性間欠的運動中の血清IGF-1濃度の変化は運動強度による影響を受ける可能性が示唆された。 また,健常男性9名を対象に間欠式運動と連続運動による運動後余剰エネルギー消費量(EPOC)の差異についても検討した。その結果,間欠式運動は連続運動に比べて主観的運動強度(RPE)が有意に高値を示したが,EPOCの変化量は両運動間に有意な差は認められなかった。これらの結果より,高強度でも短時間で間欠的に運動を実施すれば血清IGF-1濃度の増加が認められ,連続運動と同様の運動後の余剰エネルギー消費が期待できる可能性を示した。 平成26年度は上記研究に加えて,軽強度の有酸素運動が高齢者の認知機能改善効果についても検討した。認知機能低下高齢者10名を対象にスロージョギング運動に24週間のベンチステップ運動を中心とした運動介入を行い,有酸素性作業能力の向上と認知機能(MMSE)の改善が認められた。本研究の結果は,軽強度の運動介入により,高齢者の有酸素性作業能力や認知機能の維持・向上が期待できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢に伴う有酸素性作業能力と筋量の低下は,高齢者の健康阻害要因であるが,適度な運動によって改善することが可能である。また,有酸素性作業能力を高める運動によって,うつ病や認知機能の改善をもたらす可能性が示唆されている。しかし,高齢者が安全で気軽に行え,有酸素性作業能力や筋量,さらには脳機能の向上に寄与する最適な運動条件は明らかにされていない。これらの運動適応は,骨格筋でのPGC-1αやIGF-1が鍵となって引き起こされる可能性が高いと考え,平成25年度までは間欠式運動中の骨格筋PGC-1αの増加を確認してきたが,IGF-1濃度の変化については検討することができなかった。平成26年度は,血清IGF-1濃度の増加を引き起こす安全性の高い至適運動条件を見出すことを目的としており,上記結果から研究計画どおり進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,「PGC-1αの発現を促す有酸素運動は有酸素性作業能力や筋量を高めると同時にインスリン感受性を改善させ,脳機能も高める」との仮説を実験室とフィールドで証明し,健康寿命延伸と介護予防の地域支援システムを構築する。1. 軽強度有酸素運動による有酸素性作業能力,筋量増加,インスリン感受性改善効果を検証する無作為化割付試験,2. 連続的な持久性運動と間欠式運動における骨格筋PGC-1αと血清IGF-1濃度の変化を検証するとともに,安全性が高く,運動習慣が形成しやすい運動条件を確立し,最適な運動条件を見出す。今後の研究実施計画として, 1. 安全性が高く,容易性に優れ効果的な運動プロトコールの開発:平成25-26年度に引き続き,最適な間欠式運動を探索する実験を行うとともに,EPOCに対する検証も進める。高齢者10名を対象に高強度の間欠式運動の妥当性を検討する。 2. 地域住民における簡易運動プロトコールの効果検証:これまでの運動手法研究から発案された運動プロトコールの効果検証を地域ぐるみで行う。我々が開発した運動処方システムを用い,個別の運動処方を作成する。トレーニングには,申請者が発案したスロージョギング運動を非監視型で実施する。また,認知機能低下者を対象とした長期(3年以上)運動介入を行い,海馬容量(MRIにて評価)への影響,認知症への移行率を調査する。 3. メタボリックシンドローム該当者および予備軍からリクルートした対象者に長期運動介入を引き続き実施し,運動効果と医療費抑制効果を検証する。運動介入は,1月に数回の運動教室とスロージョギング,貸与したステップ台を用いた自宅での非監視型トレーニングを実施する。 昨年度までと同様,福岡県那珂川町,大分県日田市,宮崎県都城市,山口県柳井市と連携して研究を行い,本年度より新たに福岡市東区での介入研究を開始する。
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