研究課題/領域番号 |
25242068
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤井 郁雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70189984)
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研究分担者 |
円谷 健 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372855)
藤原 大佑 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30611420)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体分子 / 医療・福祉福祉 / ナノバイオ / 蛋白質 / 有機化学 |
研究実績の概要 |
研究目的:進化分子工学(細胞表層ディスプレイ技術)とペプチド構造構築理論を組み合わせることにより,分子標的化合物の新しい設計法を開発する。すなわち,ヘリックス構造をもつペプチドのライブラリーを構築し,標的タンパク質に結合するペプチド(マイクロ抗体と呼ぶ)をスクリーニングする。得られるヘリックスペプチドの結合活性アミノ酸の立体構造情報をもとに分子標的化合物を設計する。 研究計画・方法:本研究では,ヘリックス-ループ-ヘリックス構造ペプチドを土台分子として,4つの戦略で分子標的化合物の作製技術を検討する。①試験管内進化によるマイクロ抗体の開発,②立体構造情報に基づくマイクロ抗体の開発,③親和性,生物活性,生体内での安定性,膜透過性,体内動態,抗原性: ④分子標的低分子化合物の設計と合成および生物活性 平成26年度の研究実績概要:当該年度は,②立体構造情報に基づくマイクロ抗体の開発としてp53とMDM2とのタンパク質-タンパク質相互作用を分子標的とした。p53ヘリックス上の相互作用に関与する4つのアミノ酸(Phe19, Phe22, Trp23, Leu26)を,C末端ヘリックス上に移植することにより阻害ペプチドの獲得に成功した。③親和性,生物活性,生体内での安定性,膜透過性,体内動態,抗原性に関しては,G-CSF受容体結合マイクロ抗体およびp53様マイクロ抗体について,酵素分解に対する安定性を評価した。④分子標的低分子化合物の設計と合成および生物活性に関しては,G-CSF受容体結合マイクロ抗体について,アラニンスキャンニングし,ヘリックス上の結合活性アミノ酸残基を決定した(Leu28, Lys29, Glu32)。次に,活性アミノ酸の側鎖の動きを分子動力学計算により決定し,それを情報として低分子データベースを検索して,低分子の土台分子としてビフェニル誘導体を設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 立体構造情報に基づくマイクロ抗体の開発:X線構造から得られる立体構造情報をもとに,分子認識に必要なアミノ酸残基をヘリックス-ループ-ヘリックス構造ペプチドに移植することにより,目的のマイクロ抗体を取得した。p53とMDM2とのタンパク質-タンパク質相互作用を分子標的とした。この相互作用では,p53のヘリックス部分がMDM2と結合しており,その結合に関与するp53ヘリックス上の4つのアミノ酸(Phe19, Phe22, Trp23, Leu26)を,C末端ヘリックス上に移植した。表面プラズモン共鳴法による阻害活性試験より,得られたペプチド(HLHp53-1R)が,p53-MDM2との相互作用を強く阻害することが判明した(IC50 = 36 nM)。 (2)マイクロ抗体の生体内安定性:マイクロ抗体自身の分子標的化合物(次世代抗体)としての潜在能力を評価した。マイクロ抗体は立体構造を持つことにより,生体内での安定性(酵素抵抗性)を獲得することができる。そこで, G-CSF受容体マイクロ抗体を固層法によりペプチド合成し,円二色性スペクトル法(CD)より立体構造を評価した。ペプチドも安定なヘリックス構造をもち,マウス血清中での酵素分解に対し強い抵抗性を示した(半減期:15 日)。同様に,VEGF結合マイクロ抗体もトリプシンに対して強い安定性をもつことが判明した(半減期,M49: 20 h)。 (3) 分子標的低分子化合物の設計と合成: G-CSF受容体結合マイクロ抗体のアラニンスキャンニングにより,ヘリックス上の結合活性アミノ酸残基を決定した(Leu28, Lys29, Glu32)。次に,活性アミノ酸の側鎖の動きを分子動力学計算により決定し,それを情報として低分子データベースを検索して,低分子の土台分子としてビフェニル誘導体を設計した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)マイクロ抗体の膜透過性の検討および膜透過性ペプチドの導入:巨大タンパク質である抗体は細胞膜透過性がないため,細胞内の重要なタンパク質を標的にすることができない。一方,マイクロ抗体の分子サイズは小さく,細胞膜透過性もつ可能性があり,抗体に比べ大きなメリットである。そこで,上記の2つの方法で得られるMDM2結合性マイクロ抗体を蛍光分子(FITCなど)で化学修飾し,蛍光を指標にして細胞膜透過性を検討する。 (2)マイクロ抗体の抗原性試験:マイクロ抗体と担体タンパク質(KLH)の縮合体を合成する。1)マイクロ抗体のみ,2)マイクロ抗体+アジュバント,3)マイクロ抗体-KLH縮合体の3種の抗原で免疫し,血中の抗体産生量をELISAで検証する。 (3) マイクロ抗体および分子標的低分子化合物の生物活性:得られたマイクロ抗体および低分子化合物について,生物活性を評価する。抗G-CSFR分子標的化合物に関しては,NSF60細胞を用いてG-CSFによる細胞増殖の阻害活性を検討する。また,抗VEGF分子標的化合物に関しては,ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC)を用いる。抗Aurora キナーゼ分子標的化合物および抗MDM2分子標的化合物に関しては,ヒト結腸腺ガン細胞HCT116細胞を用いて,ガン細胞増殖阻害活性を検討するとともに,アポトーシスやセルアレストなど各種バイオマーカーを調べることにより作用機序を明らかにする。
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