研究課題/領域番号 |
25242070
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 正昭 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 脳機能画像診断開発部, 特任研究員 (90093046)
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研究分担者 |
土居 久志 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, チームリーダー (00421818)
古山 浩子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50402160)
石井 英樹 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター 分子認識研究プログラム 分子プローブ開発チーム, 研究員 (80425610)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2016-03-31
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キーワード | PET分子プローブ / 分子イメージング / 認知症(脳機能)改善漢方薬成分 / ギンゴライド / ギンセノシド / 高速クロスカップリング反応 / クロスメタセシス反応 |
研究概要 |
イチョウ葉エキスの特有成分であるギンゴライド(G)類の中のGBは血小板活性化因子受容体(PAFR)のアンタゴニストとして知られている。我々はGBの分子設計により,10位水酸基を4-メチルベンジル化した高疎水性誘導体(Bn-GB)がPAFRに対して10倍高い結合親和性を示すことを見いだした。一方,ラット脳梗塞モデルにより,GBが脳梗塞発症後の梗塞の進行を顕著に抑制し,その効果がBn-GBより大きいことを見いだした。これらの結果からPAFRへの作用と神経保護作用は異なる作用であると推定された。本件をふまえ, GBはNMDA型グルタミン酸受容体のグリシンサイトに競合的に結合し,神経細胞死抑制効果を表すことが明らかとなった。平行して、GBの体内動態を明らかにすべく, 18F標識GBおよび独自の高速C-[11C]メチル化で合成した11C標識Bn-GBのPETイメージング研究を行なったところ,ラットに対して[18F]GBは脳移行性がほとんどなく,一方, [11C]高疎水性GB誘導体には,サイクロスポリン存在下脳内への移行が観察された。これらの事実をふまえGBの脳移行性を高めるために,血液脳関門に発現するグルコーストランスポーターの活用を図った。基軸アイディアとして脳内に移行したのち糖加水分解により活性体GBが再生するようにGB・グルコース連結体を設計した。結果1) 低収率ながら目的化合物を合成することができた。結果2) グリシンの親水性を考慮したペグ鎖導入型GB誘導体を設計し,必要な部分構造の合成のためにHoveyda-Grubbs 2nd generation触媒を用いた高効率的なオレフィンクロスメタセシス最適反応条件を確立した。本年度では,本研究の基盤となる標識合成法の開発やPET研究の応用に関する成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,漢方薬であるイチョウ葉エキスに含有されるギンゴライドと高麗人参の含有成分であるギンセノシド類に着目し,新規脳機能診断薬やより有効な薬物の開発を目的とした創薬研究のための構造上への短寿命放射性核種11Cあるいは18Fの導入によるPET分子プローブの開発研究である。これらの研究の推進には,1)薬効の向上および特異性獲得に向けた分子設計,2)薬効メカニズムの解明,3)PETプローブ化,4)生体を用いた分子イメージング研究による薬物動態解析等が必要である。当該年度(平成25年度)では,① イチョウ葉エキスから本研究に必要な十分量のギンゴライド類の抽出を試みた;② GB・グルコース直接的連結体の合成は困難であることが判ったので脳内加水分解による薬剤の再生を想定したクレゾールリンカーを介したGB・グルコース連結体を設計し,合成研究を展開した;③ 低収率ながら目的とするGB・クレゾールリンカー・グルコースの合成に成功した;④ GB構造の立体的反発を考慮して,新たにペグ(ポリエチレングリコール構造単位)をさらに連結したGB・ペグ・クレゾールリンカー・グルコース連結体を設計し,その合成の基軸となるクロスメタセシス反応をより構造の単純なモデル化合物を用いて検討した。その結果,○5 アリルアルコールとアリルエーテル型モデル基質を用いてGrubbs触媒および反応条件をスクリーニングした結果,Hoveyda-Grubb 2nd generationを触媒とし,基質に対して過剰量(10当量)のアリルアルコール条件下にクロスメタセシス反応を行うと効率よく(>70%収率)反応が進行することが判った。この基軸反応はギンセノシドのPET標識化の過程にも活用できることから,上記の最適条件の発見は今後のPETプローブの合成展開に大きな期待を抱かせ,研究は順調に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
目的とするPET分子プローブの合成に向け,(1)前年度で確立したクロスメタセシス最適反応条件を実際のGB・ペグ連結体の合成に応用し,まずは,非放射性GB・ペグ・クレゾールリンカー・グルコース連結体の全合成ルートを確立する。(2)脱グルコースおよび脱クレゾールリンカーによる代謝後に生じるGB・ペグ誘導体のin vitroおよびin vivo系(ラット脳梗塞PITモデル)での薬効解析を行う。ここでは薬効効果の評価に十分な量(各30 mg)のGB・ペグ誘導体を合成する。(3) 合成に成功したGB(GB・ペグ)・クレゾールリンカー・グルコース連結体からそれぞれGBおよびGB・ペグが再生する速度(加水分解速度)をin vitroおよびin vivo系にて測定・比較し,プロドラッグとしての有効性を評価する。 (4)ギンセノシドの主要代謝物であり強力な作用を示す化合物K(C-K, 20位水酸基へのグルコース配糖体)の ステロイド骨格25位のビニル炭素を,sp2(ビニル)-sp3型高速C-[11C]メチル化の応用により11Cで標識する。しかし予備的な合成検討では,非糖体を用いたホウ素標識前駆体の合成は可能であるが,20位糖付加体のメタセシス反応によるホウ素体の合成は進行しない。本問題の解決には前年度に確立したクロスメタセシス反応の知見を生かしたい。(5)脳内でのギンセノシドの作用発現にはグルコース付加体の積極的な脳移行が働いていると考え,この点を重視した分子設計も進めてゆく。すなわち,C-Kとは異なる位置(3位)に糖が付加したG-Rh2を候補化合物とし,まず,C-K, G-Rh2およびその非糖体Ppdのin vitroおよびin vivo(ラットPITモデル)系を用いた脳梗塞抑制効果の評価によりPETプローブ化する構造を抽出する。(6) 前駆体の合成が完了した化合物から相当するPETプローブのテスト合成を行う。
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