研究課題
本基盤研究Aでは、1)脂質ラフトなどのマイクロドメインに結合することによって生体膜における情報伝達機能を改変することのできる化合物を再発見し、2)ケミカルバイオロジーの領域を生体膜に拡張すると同時に、脂質研究に有用な小分子プローブを見いだして世に送り出すことを目的とし、3年間研究を実施した。その結果、すでに26件の学術論文として発表したように、当初の目標をおおよそ達成することができた。例えば、京大薬・東大農・理研との共同研究において、ステロール認識する環状ペプチドの脂質膜上における作用を精査して、本ペプチドの生理活性発現機構の解明につなげた。また、従来から研究を進めてきたアンフィジノールやアンフォテリシンBが有するステロール認識機構についても顕著な進捗を達成した。さらに、本基盤研究開始後に新たに始めた2つの研究課題におても当初の想定を上回る進捗を示している。すなわち、特殊な植物性サポニンが有するステロール相互作用を、有機合成化学や固体NMRの手法を取り入れることによって、解明することに成功しつつある。また、古細菌の膜脂質PGPMeのモデル化合物を利用して、周辺脂質が膜タンパク質の機能に及ぼす影響を構造面から解明する手法を確立した。すなわち、標識原子(重水素、セレン、臭素など)を位置特異的に脂質に導入することによって、固体NMRや結晶X線回折による周辺脂質の選択的観測を可能にした。この結果、膜における脂質の構造情報を多面的に取得する研究手法を開発することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
上述のように、本年度は更に研究を加速することによって、研究期間中に26件の学術論文を発表することができた。このなかには、ステロールと異なる形式で結合する4種の天然物に着目し、共同研究者とともに、その作用機構を明らかにすることができた。また、脂質と類似した生理活性小分子を有機合成化学に調製して作用機構解明に用いた。さらに、それらの同位体や蛍光色素による標識体を合成することによって、作用機構の解明が加速されることを示した。また、一部の化合物については、企業との共同研究や特許を通じて、世に出す段階に入っている。したがって、当初の目的をほぼ達成することができたと考える。このように、生体膜において情報伝達を改変する化合物を再発見し、その機能の解析を進めることを通じて、タンパク質とその周辺脂質について理解を深めることができた。
今までの研究遂行の過程で、今後の研究の方向として、タンパク質との相互作用を指標とした小分子プローブ探索の方が効率がよいと確信した。そこで、本基盤研究Aで得られた知見をもとに、研究期間1年を残す現時点で、多少異なる方向に研究を展開した方が、当初の研究目標を内包して、より大きな発展につながると考えるに至った。この方針に沿って、基盤研究Sを申請中であり、採択されるた場合は、基盤Sにおいて、本基盤研究の成果を引き継いで行く予定である。基盤Sの採否に拘わらず、脂質-タンパク質および脂質同士の相互作用について、構造生物学的なアプローチで研究を進めることによって、脂質の特異的認識に関わる分子機構の正確な理解に結び付ける。これには、膜脂質自体の精密構造解析と計算機化学的なアプローチが必要となるので、ケミカルバイオロジー的手法に加えて、構造生物学研究・生物物理的手法を動員することによって、より重要な研究成果につなげたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 12件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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