研究課題/領域番号 |
25243010
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
宮地 尚子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60261054)
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研究分担者 |
後藤 弘子 千葉大学, 大学院専門法務研究科, 教授 (70234995)
青山 薫 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (70536581)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精神医学 / トラウマ / ジェンダー |
研究実績の概要 |
トラウマとジェンダーの相互作用を、(1)精神病理や臨床的側面から、(2)犯罪行為や逸脱現象の側面から、(3)当事者の自助グループ やメディア発信・アート表象など文化創造的な側面から探り、明らかにすることを目的に、年間テーマを「依存症とジェンダー:トラウマの『自己治療』から自助グループへ」として以下の研究活動を行った。科研費研究員として菊池美名子、科研費技術員として松村美穂、研究協力者として坂上香、栗林美知子、嶺輝子らが参加した。 フィールド調査の他、国際学会や国内各地の学会に参加し、国内外の研究者らと交流し、共同研究を進めた。また、ワークショップ等の企画開催、国内外における講演などにより研究成果の発信に務めた。 具体的には、 (1)では、平成28年3月に震災後5年目を迎えた被災地の精神保健医療対策、まちづくりと震災トラウマ及び復興ストレスの現状と課題について調査するため、宮城県でフィールドワークを行い、分析を進めた。 (2)では、薬物依存者回復施設ダルク企画の「ダルク30周年記念フォーラム」での講演の他、共同研究を行い、依存症と回復について考察を深めた。 (3)では、NPO法人アートフル・アクションとの共催企画「多文化アートプラットフォーム2015『考える・行動する・繋がる共創空間』」を開催した。ヨガ講師を招聘して『こころと身体の対話―ヨガとアーユルヴェーダから回復を考える』を開催し、トラウマや依存症からの回復について、こころと身体へのアプローチと相互作用を検討した。「END VIOLENCE AGAINST LGBTIQ(LGBTIQへの暴力をやめよう)」というコンセプトの元、ワークショップ『TRAUMAとCREATIVITY 表現から見えるその先の未来』を開催し、デザインポスターのコンテストの結果発表、展示会、関連イベントを行うなどして、聴衆を交えた議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東日本大震災や、ストーカー犯罪などの様々な社会問題により、近年トラウマや心のケアに対する社会の関心が高まっている。それを受けて、トラウマやジェンダー、逸脱などに関する研究会参加や講演、論文執筆等の依頼が増え、提言を求められるなど、さまざまな形での研究協力や共同研究の機会が多くなっている。 定期的な聴衆参加型のワークショップ等の開催の他、論文や講演、著書などにより様々な研究成果を発信し、平成25年に岩波新書として出版された著書『トラウマ』が今年度は韓国語に翻訳され韓国で出版される等、国内外に研究成果が普及されつつある。 男女共同参画センターや警察大学校等における講義や講演を積極的に行い、ジェンダーに基づく暴力による被害者の支援や保護に関わる人材育成に貢献している。 また、平成27年度より社会学研究者でジェンダー・セクシュアリティ論の青山薫を新たに分担研究者に迎え、学際的な共同研究体制がより強化された。 以上のような理由から、研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度の共同研究や国内外の研究者との交流等から得られた各分野における知見をさらに深め、最終年度(平成29年度)に向けて理論的な側面の成果を発展させるため、年間テーマを「グローバル社会のトラウマとジェンダー: 病理/逸脱/創造性」とし、トラウマを社会やグローバルな視点に広げて検討する。世界各地の自然災害、紛争、テロ等におけるトラウマへの対応やその文化的多様性について考察を行う。伝統医学や土着の癒しの文化的装置、とくに象徴的治療技法や治療共同体にも着目する。また、国内における当事者によるアート・情報発信の実践に関する昨年度までの研究実績をふまえて比較文化的研究を進める。 また、平成28年度は東日本大震災から5年という節目となるため、震災のトラウマとジェンダーについても、昨年度(平成27年度)の成果をふまえて引き続き検討する。東日本大震災後の5年をふりかえり、阪神淡路大震災と比較しながら「復興」過程でトラウマがどのように複雑化、潜在化しているかをジェンダーの視点から問い直す。特に、精神保健の視点から分析するのみならず、トラウマの影響が犯罪や暴力や逸脱として現れる側面や、それに抗するための被災当事者及び支援者による文化創造的な活動に着目する。 また、引き続きNPOとの共同企画によりワークショップを開催し、トラウマ、セクシュアリティ、アタッチメント、解離、逸脱といったテーマについて分析を進めると同時に、情報発信も行っていく。
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