研究課題/領域番号 |
25244022
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
庵 功雄 一橋大学, 国際教育センター, 教授 (70283702)
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研究分担者 |
イ ヨンスク 一橋大学, 言語社会研究科, 教授 (00232108)
森 篤嗣 帝塚山大学, 現代生活学部, 准教授 (30407209)
川村 よし子 東京国際大学, 言語コミュニケーション学部, 教授 (40214704)
宇佐美 洋 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 日本語教育研究・情報センター, 准教授 (40293245)
山本 和英 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (40359708)
金田 智子 学習院大学, 文学部, 教授 (50304457)
柳田 直美 一橋大学, 国際教育センター, 講師 (60635291)
三上 喜貴 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (70293264)
湯川 高志 長岡技術科学大学, 工学部, 教授 (70345536)
岩田 一成 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (70509067)
松下 達彦 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00255259)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | やさしい日本語 / 言語政策 / 言語工学 / 日本語教育 / コーパス / 文法シラバス / JSL児童・生徒 / ろう児 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、専属のプログラマーを雇用し、横浜市との協働により、公的文書の書き換え支援システムおよび例文検索システムの開発を進めた。さらに、「やさしい日本語」を書くために必要で、かつ、日本語教育研究にも資するところの多い各種ツールを開発し、改修した本研究のHP上で公開した。 本研究の内容を中心に、「やさしい日本語」研究の現状と今後の課題を一般市民に広く伝えるための公開シンポジウムを行い、約300名の参加者があった。さらに、東アジア地域における、外国人に対する現地語教育の状況などを議論するための国際シンポジウムと、「やさしい日本語」を用いたナラティブ(語り)に関する国際ワークショップを開催した。その他にも、豊橋市において合計8回にわたり、市職員を対象とする「やさしい日本語」に関する講演およびワークショップを開催したほか、全国において、「やさしい日本語」の理念を一般市民に伝えるための講演、ワークショップなどを合計20回以上行った。また、「やさしい日本語」の理念に関連する、接触場面における日本語母語話者の言語調整能力について研究した研究書を公刊した。 「やさしい日本語」の理念を、JSLの児童・生徒やろう児の日本語習得の問題に拡張することの喫緊における必要性を、論文等を通して公表するとともに、そうした理念にもとづく教材開発を行う前提として、初級から上級までを見通した全く新しい文法シラバスを開発し、論文化した(印刷中)。 上記の文法シラバスに依拠した日本語教材のうち、中級(Step4)レベルのものの一部の試行版を完成するとともに、JSLの児童・生徒にとって必要な教材作りに関する学会発表を行った。さらに、ろう児を対象とする書記日本語教育を考える上で基盤となる研究に着手し、ろう児を対象とする調査を行った。中国語母語話者を対象とする「やさしい日本語」についての本格的な調査・研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の現在までの達成度を上述のように判断する根拠は以下の通りである。 本研究課題の第一の目的は、自治体が発行している公的文書の「やさしい日本語」への書き換えの手順を平準化するとともに、公的文書の作成を可能な限り容易なものにするための書き換え支援システムと例文検索システムを、横浜市との協働のもとで開発することであるが、この点については、専属のプログラマーを雇用して作業の集約化を図った結果、システムのフレームワークはかなり強固なものとなりつつある。さらに、この作業を進める過程で、副産物として、日本語分析に資するところの多い各種ツールを開発し、それを一般市民や研究者向けに本研究のHPにおいて公開した。 本研究課題の第二の目的は、JSLの児童・生徒に対する日本語教育、中でも、彼(女)の高校進学率を(飛躍的に)高めることを目的とする日本語教材を作成することであるが、この点については、そうした教材が依拠する、初級から上級までを見据えた文法シラバスの開発を終えるとともに、雑誌論文や講演、ワークショップなどを通して、この目的(「バイパスとしての「やさしい日本語」」)の重要性を一般市民向けに啓蒙する活動を全国で行った。これまでの研究でその重要性を指摘してきた、接触場面における日本語母語話者の調整能力に関する研究書を出版するとともに、自治体との協働のもと、自治体の窓口での対応を実態に関する調査を進めた。 これまで、本研究の立場からする「やさしい日本語」研究は専ら非漢字圏学習者を想定したものであったが、日本国内における学習者人口が圧倒的に多い、中国語話者向けの「やさしい日本語」の研究に着手した。 一方、本研究の理念を、日本が今後真の意味の「多文化共生社会」を迎えるための課題と捉え、そうした課題を一般市民と共有するため、公開シンポジウムを開催する一方、論文、講演、ワークショップなどを開催してきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はこれまで概ね順調に進展しているので、今後も基本的にはこれまでと同様の方針で研究を進める。ただし、横浜市との協働で進行中の公的文書作成に関わる諸システム開発および「やさしい日本語」への書き換えの自動化については、専属の書き換え作業者1名を雇用して、研究代表者の監督のもとで作業を続け、より完成度の高いシステムの開発を目指す。 「言語的少数者に対する言語保障」という観点から最も重要なJSL児童・生徒向けの教材開発に本格的に取り組む。この教材は、日常言語(BICS)にそくした初級から上級までにいたる初めてのものであり、教科書の内容の理解し、高校受験の壁を乗り越えることに特化した実践的な内容になる予定である。この目的を達成するため、JSLの中学生を対象とする日本語教材開発で豊富な実績を持つ研究者を研究分担者に加えた。 言語保障の観点からはろう児や知的障がい者なども重要であるが、そのうち本研究では、ろう児の書記日本語習得に関する課題に取り組む。ろう児が持つ認知能力を活かし、言語学の知見を踏まえた調査を行い、日本語教育の観点からも妥当性の高い教材開発を目指す。 JSL児童・生徒向けの教材と、ろう児対象の教材には共通する部分がかなりあるが、本研究ではそのうち、文法シラバスの共通性を活かした教材の開発を目指す。 さらに、これら2種類の教材では漢字(語)の習得が鍵を握ることに留意し、漢字(語)の習得に関する基礎研究を行うとともに、全く新しい漢字(語)教材を開発するための基礎データ(主に語彙)の分析を進める。この目的を達成するために、言語心理学的アプローチにもとづく漢字(語)研究において実績を有する研究者を研究分担者に加えた。さらに、こうした教材をできる限り短期間で完成させるために重要なe-learningシステムについて、既に同様のシステムを作成しているグループと連携して開発を目指す。
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備考 |
(1)のwebページにおいて、2014年5月24日に開催した公開シンポジウム「「やさしい日本語」研究の現状とその展開」の発表予稿集を掲載している。
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