研究課題
環境考古学、縄文考古学、災害地理学の方法と最新成果を摂取して、文化人類学分野において有効性をもつ環太平洋文明学を構築することを目的とする。次年度は、初年度に引き続き、各班が計画に沿って調査研究を実施するとともに、成果の共有化をはかり、中間的な成果報告を行なった。第1班(文化人類学:渡辺)は、環太平洋地域における人間=環境関係について、フィールドおよび文献調査によるデータの集積を進めるとともに(カナダ、パナマ、モンゴル)、その理論的な処理の方向性について検討した。第2班(環境考古学:安田)は、コロンビア・グアタビータ湖と、韓国・済州島など合計6ヶ所においてコアリング調査を行ない、堆積物の採取に成功した。このうち、年縞が確認されたコロンビアの堆積物を中心に分析を進めた。第3班(縄文考古学:矢野)は、関西地方の住居・墓、石器などのデータベース作成、京都府向日市で採取した土壌コア試料の分析および関連資料の採取等、縄文文化から弥生文化への移行解析における情報基盤の整備とデータ・資料の解析を進めた。第4班(災害地理学:高橋)は、日本列島周辺における1923年以降のM1以上の地震を記録した汎用性の高いデータベースを完成させた。また、コロンビア・グアタビータ湖および周辺の地形地質調査を実施し、次年度以降の調査につなげた。第5班(古気候学班:中川)は、福井県水月湖の年縞堆積物に対して、オックスフォード大学と共同で予察的な火山灰分析を行ない、1mに平均2層準ほどの火山灰層を検出した。また年代測定のために化石花粉を濃縮する革新的な技術の実用化に目処をつけた。全体では、2度の公開シンポジウム(「アジアの環境変化と人類」(12月)、「対馬海峡と古墳文化」(12月)を開催、また環太平洋文明叢書の第1弾として「津軽海峡圏の縄文文化」(雄山閣, 217p)を刊行し、当拠点研究成果を広く一般に発信した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究計画の達成状況は以下の通りである。第1班は、調査が遅れていた南北アメリカ先住民社会をはじめとして、現地調査によるデータの集積に注力した。さらに、各人の調査・研究の成果のとりまとめに着手したが、「物質循環」の概念の理論的な検討については平成27年度以降の課題とした。第2班は、コロンビア・グアタビータ湖においてボーリング調査を実施し、約30cm、およそ300年間分(1mm/年に堆積すると仮定した場合)の堆積環境を保存していることを確認することができた。今後分析を行ない、環境変動を復元予定である。また、現在保有している環太平洋各地の年縞の再分析にも本格的に着手した。第3班は、縄文遺跡データベース作成にあたり、関西縄文文化研究会刊行の資料集のデジタルデータの変換作業に着手し、全体の三分の二まで作業を終え、成果の一部を発表した。また、向日市で採取した土壌コアの分析を進め、縄文時代の洪水頻発期を発見した。このほかに、米原市杉沢遺跡、琵琶湖葛籠尾崎湖底遺跡の調査・分析を進めた。第4班は、コロンビア・グアタビータ湖およびその周辺において地質地形調査を行ない、当該地域における環境変動を復元し、平成27年度に環境考古学班と共同で実施する調査へとつなげた。また、平成25年度にチリ・バルデビアで実施した調査の結果、および日本における震度1以上の地震記録をつき合わせて、環太平洋地域における地震および火山活動の包括的な関連性の検討を進めた。第5班は、今年度は、古気候学研究センターの立ち上げと水月湖でのコアの採取に注力する必要があり、花粉分析による気候復元は当初の予定ほど進まなかった。一方、水月湖の年代目盛りを他地域で用いるための準備として、火山灰対比ならびに放射性炭素年代による対比をルーチンで行なう技術を開発した。これにより、気候変動と考古学的記録のタイミング比較の可能性が広がった。
平成27年度以降は、以下の通り研究を推進していく予定である。第1班は、北米、中南米、モンゴルでの環境と生業の関連についての調査を継続し、それぞれの環境と生業における「物質循環」の概念の精緻化をめざす。第2班は、韓国・済州島、コロンビアでの年縞調査を継続する。昨年度末に災害地理学班と共同で行なったコロンビア・グアタビータ湖での予備調査はきわめて有望な結果であったため、今年度はこの湖の調査にかなりの程度注力する。第3班は、今年度の日本の遺跡の可視化などデータベース構築の作業を進めつつ、環太平洋地域へと視野を拡大し、ペルーの先史考古学調査を行なう。第4班は、昨年度のチリでの長期現地調査の成果をまとめつつ、環境考古学班と協力してコロンビア・グアタビータ湖の年縞調査を継続する。第5班は、研究環境の整備が終わり、水月湖でまだ分析が完了していないおよそ2500サンプルについて、花粉分析にもとづく定量的気候復元を遂行する。またグアテマラでの年縞調査結果の分析も進め、この点からも環太平洋文明学への寄与を図る。
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